『系統樹思考の世界』の姉妹編。本のオビ(右)はこんなに豪華らしいが、図書館本なので味気ない。新書にしてはかなりの量の参考文献には多くの専門書に混ざって京極夏彦、横溝正史などの本が挙げられていますし、絵画や音楽などの話題に著者の博学ぶりがいたるところに表れていて、生物哲学というわかりにくい分野の歴史であるにもかかわらず、なんとか楽しんで読むことができました。
例えば昆虫の新しい「種」が見つかったという話題を目にして、素人目には在来種とはたいして違わないように見えるのに、いったいどこが違うのだろうと思うことがあります。分類学をやっている人に尋ねると、その分野の第一人者が「新種」だと判断すれば新しい「種」だと認められるのだというような裏話を聞いて、生物の「種」の定義はかなり曖昧なものだなという印象を持ってはいました。
ところが本書でさらに、生物の「種」というものは本当に存在するのかという形而上学的な疑問を投げかけられ、進化し続けている生物に時空を越えた同一性を持つ「種」が存在しうるのかと問われ、そして「種」の実在はヒトがその進化過程で生得的に獲得した心理的本質主義に基づいた認知バイアスによるものなのではないかと言われると、なるほどその通りだなあと思ってしまいます。
分類する宿命を生まれながらに背負わされたヒトという生き物がもつ心理的本質主義(事物の背後には、見えない「本質」がひそんでいると考える性向)は、進化的思考と対立するものであるのだそうで、進化的思考が受け入れられにくいのはそのためだというのです。