壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

眺めのいい部屋 E・M・フォースター

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眺めのいい部屋 E・M・フォースター
北條文緒訳 みすず書房 フォースター著作集2 1993年

 

「ハワーズ・エンド」が面白かったので、もう一作フォースターを読みました。使われているのが同じようなモチーフなので、主人公のルーシー・ホニーチャーチと、ハワーズ・エンドのシュレーゲル姉妹がすっかり重なって見えました。思慮深いマーガレットと進取の気性に富んだヘレンの両方の資質を持つようなルーシーです。

 

ルーシーと年上の従姉シャーロットは、フィレンツェのペンションで部屋の眺めが悪いことを嘆いてると、見ず知らずの老人から部屋を換わってあげましょうかという申し出を受けました。ポールとジョージのエマソン親子と知り合ったルーシーは、その人物に魅力を感じながらも、身分違いを言い立てるシャーロットに引きずられるようにしてフィレンツェを出立します。イギリスに戻ったのち、ルーシーは上流階級の青年セシル・ヴァイスと婚約するけれどそれに飽き足らず・・・・・・・

 

イギリスの階級社会と二十世紀初頭の時代変化の中で、生き方を模索するルーシーは、才能あふれる生き生きとした女性です。べートーベンの最後のピアノソナタを人前で弾けるくらいなのです。ルーシーが、自分自身の自由を求める気持ちと、自分の中にある保守性にどう折り合いをつけていくのかという葛藤は、女性の普遍的なテーマだと思います。

 

フィレンツェでの出来事、イギリスの森の池での水浴など印象的でコミカルな場面と、ルーシーを取り巻く人々の一面的でない人間性など、ハワーズ・エンドに劣らない、よくできたコメディーです。波瀾万丈さには欠けるけれど、こちらのほうがコンパクトにまとまっていて、めずらしく映画を見たくなりました。

 

解説にありましたが、五十年後(1958年)にかかれたというこの話の後日談「部屋のない眺め」ではルーシーとジョージは幸せに暮らしているとのこと。(これはどこで読めるのでしょう。)「眺めのいい部屋」が書かれたのが1908年で、フォースターはまだ二十代だったんですね。つぎは、「インドへの道」を読もうか迷っています。