壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

クマムシ?! 小さな怪物 鈴木忠

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クマムシ?! 小さな怪物 鈴木忠
岩波科学ライブラリー 2006年 1300円

もう一冊、クマムシ本です。

クマムシが「地球最強の生き物である」という噂が都市伝説のように流布しているそうです。何をしても死なない?完全に乾燥すると百年以上生きる?液体ヘリウム温度でも、高真空でも、電子レンジでチンしても?そんな噂は生物学の真実なのか、はたまた疑似科学なのか?

クマムシの基本情報から、著者とクマムシの出会い、クマムシ伝説の真偽まで、分かりやすく解説してあるのがこの本です。四対のずんぐりした足でよたよたと歩くクマムシのユーモラスな姿はかなりかわいい。筆者いわく、「肢の少ない猫バスや王蟲に似てるけど、あんなに速くは走れない」。

クマムシ伝説を検証しながら、クマムシの研究の歴史をひもとくという構成がとても巧みです。研究史は退屈なものもあるけれど、これは楽しめました。18世紀に顕微鏡が発明されるとすぐに、乾燥した状態のクマムシが水分を加えると蘇生することが明らかになっています。発見者のスパランツァーニはこれを「死からの復活」と見ていたらしいのですが、彼は生命の自然発生説を否定する立場を取っていて、このクマムシをめぐって自然発生説の信奉者との間に議論があったそうです。

乾眠状態のクマムシの驚くべき耐久性は、実験的事実に基づくものが多いけれどフィクションもありますよということで、あとは本を読んでみてください。貴重な図版もたくさんあって気軽に楽しめ、薄いのに1300円もするのに一万部も売れたというのに納得です。20世紀前半に出版されたエルンスト・マルクスの本の、夫人のエブリンの手による美しい図版もカラーで載っていました。Tシャツの柄に欲しいなんて話もありましたが、黒留袖の柄としてはどうでしょう。
http://www.tardigrada.net/images/Marcus_Tardigrada_mini.jpg
Tardigrades on moss - a plate from the book "Tardigrada" by Ernst Marcus, 1929
Tardigrada Newsletterより