壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

蜜蜂  マヤ・ルンデ

蜜蜂  マヤ・ルンデ

池田真紀子訳 NHK出版

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ミツバチをめぐる三つの物語です。第一の物語は,近代的な効率のいい養蜂技術が開発された19世紀半ばのイングランドでの研究者ウイリアムの憂鬱。第二の物語は,ミツバチの大量失踪が起きた21世紀初頭のオハイオ州での養蜂家ジョージの苦悩。第三の物語は,世界農業が崩壊した後の21世紀末の中国四川省での人工受粉労働者タオの悲劇。

時代を異にする三つの物語が数ページ毎に交互にあらわれて同時進行していきます。共通項がミツバチであることは確かですが,この三つがどのようにつながっていくのか,なかなか見えてきません。前半は読み進むのに苦労しましたが,後半,特に最後の方で物語が一気につながって,小説の醍醐味を味わいました。

ミツバチや昆虫の絶滅という地球環境問題の側面はごく大雑把に記されているだけです。むしろ人間の個としての再生,人の家族としての再生,ミツバチや人類という生物種としての再生がテーマになっていることを強く感じました。

絶望と希望をくり返しながら,この先も人間は生きていくのでしょう,たぶんいつか来る絶滅に向かって…。

 

 「ミツバチ」つながりで読んだ本です。

以下はあらすじ(ネタバレあり)です。

 

イリアム・サヴェージは自然科学の研究者を目指していましたが,道半ばで挫折し引きこもっていました。七人の娘を授かった後の一人息子エドムンドは道楽者でしたが,ウイリアムは跡継ぎとして期待をかけていました。

ョージの養蜂は伝統的な技法で手間はかかるけれど,それなりにうまくいっていました。唯一の悩みは一人息子のトムが養蜂に興味がなく,文学の道に進もうとしていることでした。

オは,夫のクアンとの間の一人息子で三歳のウェイウェンと一緒に過ごすことだけを楽しみに,一日十二時間の人工授粉作業という過酷な労働に耐えていました。

イリアムは,聡明な長女シャーロットの控え目な援助を得て効率の良い養蜂用の巣箱を考案し希望に燃えて再出発を試みるのですが,なんと同じような形式の巣箱はすでに特許申請がなされていました。息子のエドムンドは本当の役立たずで,絶望したウイリアムは巣箱とその資料をすべて破棄するように,娘シャーロットに命じました。

ョージの巣箱では,アメリカ各地で起きているミツバチの大量失踪の気配はまだありませんでした。ところがある日巣箱のほとんどが空になっていることに気が付いて自暴自棄になったところをトムに救われます。

オの息子ウェイウェンは家族ピクニックの最中に果樹林で意識不明の重体となって北京の病院に運ばれたまま消息が分からなくなりました。タオは一人で荒廃した北京をさまよい,最後にほぼ無人となった図書館で,世界の農業破綻の経緯を読み,またウェイウェンの症状が何だったのかに気が付きます。

イリアムの娘シャーロットはエドムンドの息子を連れて一人でアメリカに渡り,仕事の合間に養蜂をはじめました。エドムンドの息子は養蜂家になりました。

ョージは息子トムに助けられて養蜂に挑み続けますが,最後には養蜂をあきらめトムは一冊の本を書きました。

オはミツバチのアナフィラキシーショックで亡くなったウェイウェンがミツバチ再生の国家の英雄にされそうになり,北京の図書館から持ち帰った本『ミツバチの歴史』トーマス・サヴェージ著(最後に,ジョージとトムのファミリーネームがやっと明らかにされました。)を国家の代表に差し出します。ミツバチも,(ニンゲンも)自然の中に置いてこそうまくいくのだと。管理してはならないのだと。