中学生のころ、英語の先生のお勧めで読んだJ.オースティンはとても退屈だったのに、三十代で再読した「高慢と偏見」はびっくりするくらい面白かったんです。書かれた時代は異なるけれど、フォースターの面白さはこれに似ていました。一世紀前のイギリスの中流階級の人間模様を描いたフォースターには正直あまり興味がわかなかったのですが、面白いと伺って、読んでみました。当時としてはドラマティックでセンセイショナルだったのかもしれませんが、現代の目で見たらそれほどでもないのに、何でこんなに面白いのでしょう!
進歩的な知識人家庭で育ったマーガレットとヘレンのシュレーゲル姉妹は仲が良いけれど、考え方がまったく違います。ロンドン郊外のハワーズ・エンドに住む、実業家であるウィルコックス家の次男ポールと発作的に婚約した情熱的なヘレンですが、次の日にはもうその婚約を解消しました。その後、偶然のことからウィルコックス家の夫人ルースと理知的なマーガレットは親交を深めていきました。さらに、シュレーゲル姉妹とウィルコックス家は図らずも深く関わることになるのです。
ひとつの出来事が収束したかと思うと、また次に思いがけない出来事が起こって、最後の最後まで読み手を離さないところが面白みのひとつですので、粗筋はこれ以上無しにします。けっこうドロドロの部分もあるのですが、知的で思慮深いマーガレットの目線で大部分が語られるので、ズブズブにはなりません(笑)。たまに作者による箴言めいた解説が入ります。上品で美しくシリアスな部分とコミカルな面白さが同居していて、コメディーとして完成度が高いです。そして、このハワーズ・エンドの世界に少し古めかしい言葉使いの吉田健一訳がとてもぴったりです。
農場の干草で(花粉症じゃなくて)「枯れ草病」になったりするのはいいですね。でもウィルコックス家の長男チャールズに叱られた妻のドリーが怒りの矛先をかわすため、生まれたばかりの赤ん坊をあやす場面で「可愛い、可愛い、ぐじゅぐじゅぐじゅ」とか「ちょこ、ちょこ、ごちょ、ごちょ」というのがあまりに変です。気になってGutenbergで原文を見たら「Rum-ti-foo, Rackety-tackety Tompkin」と「Tootle, tootle, playing on the pootle」でした。英語の方はよく分かりませんが、どうしてそうなるの?
この作品もフォースターの別の作品もずいぶんと映画化されていました。ひとつも見たことがありませんが、イギリスの田園、古い城砦などの美しい風景は映画で見たいですね。フォースターの全集から何か読んでみたいと思います。なににしようかしら。