壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

草原に落ちる影 カーレン・ブリクセン

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草原に落ちる影 カーレン・ブリクセン (イサク・ディネセン)
桝田啓介訳 筑摩書房 1998年 1900円

「アフリカの日々」(イサク・ディネセン)が素晴らしかったので、その余韻を楽しみたくて、その続編ともいうべき短編集を読みました。この短編集は作者の生涯最後に出版されたものだそうです。デンマーク語の本ではカ(ー)レン・ブリクセンが使われています。

『ファラー』ケニアで18年間ブリクセンに使えた召使です。執事として有能でしたが、心は欧化することなく、ソマリ族としての誇りを持ち熱烈なイスラム教徒でもありました。英国皇太子が農園を訪問したときのファラーの活躍が愛情深く語られています。
●文学に表わされた主人と従者の関係がいくつも取り上げられ、たいてい従者の方が魅力に富んでいるという話が出てきますが、ブリクセンはジーヴスを取り上げていません。読んでなかったのかなぁ(笑)。

『王さまの手紙』デンマークの紋章のように素晴らしいライオンを手に入れたブリクセンはその毛皮を国王に献上しました。王から直筆の礼状をいただいたのですが、その王さまの手紙には特別の効能がありました。原住民にとって、効果絶大な鎮痛剤になったのです。
●事実から物語をつかみ出すブリクセンの筆致はすばらしい。

『大いなる仕草』ブリクセンは農場の、病院嫌いのアフリカ人たちの間で名医の誉れ高かったそうです。あるとき大火傷を負った少年が新薬で順調に回復していたのに途中で姿を見せなくなりました。村に探しに行くとなんと!患部に牛糞が塗りたくられていて・・・。
●それを見たブリクセンの反応と、さらにブリクセンの反応に驚いた村人たちの行動は、心温まるものです。

『山のこだま』アフリカの地を去ってからも、ブリクセンはかつての召使たちと手紙などによって連絡を取り続けていました。「アフリカの日々」の登場人物たちの後日談も交えて、ブリクセンのアフリカへの限りなき思いが語られています。
●「アフリカの日々」を先に読んでおいたほうが楽しめるのではないでしょうか。

ブリクセンは若いころ絵の勉強もしていて、表紙と裏表紙の絵はたぶんブリクセン本人の手によるものでしょう。
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