壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

キングとジョーカー ピーター・ディキンスン

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キングとジョーカー ピーター・ディキンスン
斎藤数衛訳 サンリオSF文庫 1981年 420円

「封印の島」を読んだときに教えていただいた本です。 面白かった!

SFなのか?
サンリオSF文庫に入っているし、巻頭のイギリス王室の家系図をみると明らかに架空のものなのに時代背景は正史のままで、パラレルワールドなのかもしれません。でも読んでみるとまったくSFらしいところはありません。昔は、分類しにくい作品があるとみんなSFに入れちゃったような気がします。

ファンタジーなのか?
すべての物語は13歳と四分の一という年の女の子(ルイーズ王女)の目線で語られていますので、一種のビルドゥングス・ロマンともいえます。ルイーズはときに「ナルニア」や「指輪物語」を読んだり思い出したりします。魔法使いのように年取った養育係りのミス・ダードンは、三代11人の王室の赤ん坊を育てた経験があります。しかしルイーズ王女のまわりには空想も魔法もなく、あまりにリアルで、かなり辛い現実が彼女を待ち受けていました。

児童文学なのか?
ルイーズ王女の健気さはとても好ましく、ロイヤルファミリーの家族としての暖かさは子どもたちに読ませたい雰囲気があるのですが、騒動の原因となる事実は子どもたちにはちょっとねー。大人の目からみるとYAとして適当なのかどうかも疑問です。

王室フリークなのか?
架空のロイヤルファミリーではあっても、こんなとんでもないスキャンダルを書くのはイギリスでは普通なんでしょうか。でもロイヤルファミリーに対してディキンスンはかなり好意的な見方をしています。本書は1977年に書かれたそうですが、ダイアナ王妃のことはこの後の出来事ですよね。なにやら、予測された未来のような感じがします。

ミステリなのか?
朝食の皿に盛られたガマガエル、切り取られたズボンに切り裂かれた夜着、だんだんにエスカレートしていくいたずらはついに殺人事件に発展しました。しかし一連のいたずらの犯人はなかなか捕まらないのです。動機やアリバイという面では普通の本格ミステリでした。(ミスリードにはやはり引っかかりましたが。)最大のミステリはやはり王室の謎です。ヨーロッパ王室の歴史が深く関わってきます。

まあ何かに分類する必要もないでしょう。とにかく面白かった!未邦訳の続編「Skeleton in Waiting」というのがあるそうです。ルイーズ王女はSkeleton in the closetをどのように扱ったのか、ぜひ読んでみたいです。

本書は扶桑社(2006)より復刊されています。絶版のサンリオSF文庫は、アマゾンで調べたら数千円から一万円の古書でした。なくさないように、図書館に早く返却したいです。
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