壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

老首長の国 ドリス・レッシング と 2008年総括

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老首長の国 ドリス・レッシング
青柳伸子訳 作品社 2008年 3800円

今年一番印象に残った作品はイサク・ディネセンの「アフリカの日々」でした。アフリカの自然と暮らしの美しい部分だけを凝縮した、読んだあとに頭の中をさわやかな風が吹き抜けるような小説でした。しかし、物事の美しい部分だけを見ているような気もしていました。

今年最後に読んだ本書、ドリス・レッシングのアフリカ小説集は、それを補完するような視点があります。レッシングが若いころに暮らした南ローデシアは、イギリスによる苛烈な植民地支配が行われていた土地。白人がすべての土地を奪い、黒人の労働力の上に成り立つ白人社会の中で、移住してきた白人もまた満たされてはいませんでした。白人同士の軋轢、黒人の召使に対する温情(と思い込んでいるもの)があだになる話、所詮理解し合えない人々の話です。骨太のユーモアと辛辣な人間観察、確かな描写で、長く余韻の残る作品ばかりでした。

「老首長ムシュランガ」「草原の日の出」「呪術はお売りいたしません」「二つ目の小屋」「厄介もの」「デ・ヴェット夫妻がクルーフ農場にやってくる」「リトル・テンビ」「ジョン爺さんの屋敷」「レパード・ジョージ」「七月の冬」「ハイランド牛の棲む家」「エルドラド」「アり塚」「空の出来事」(各短編の内容は後ほど)


******************以下は今年の総括です*******************************


今年読んだ本のパラパラを作ってみました
読んだ本を思い出そうとすると、目が回ります。
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今年読んだ本の読書メーター
某所の読書メーターがうまくできなかったので手作りです。読んだ本の量が、身辺事情を如実にあらわしています。
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今年のベスト長編 「アフリカの日々」 イサク・ディネセン
今年のベスト短編 「老首長の国」 ドリス・レッシング
直前に読んだ本がベストというのはあまりにも安易ですが、今年は初めてなので、良しとしましょう。

今後も、どうぞよろしくお付き合いください。

******************以下は「老首長の国」の続き*******************************
「老首長ムシュランガ」The Old Chief Mshlanga
14歳のわたしは、道で現地人の老人と出会った。農場のある地域をかつて支配していたムシュランガ首長だった。白人の少女の、現地の黒人にたいする気持ちの微妙な変化が描かれている。

「草原の日の出」A Sunrise on the Veld
少年は草原で蟻の大群に食い尽くされた子鹿の骸を見た。少年は命というものについて深く考え始める。

「呪術はお売りいたしません」No Witchcraft for Sale
幼い白人の少年を可愛がっていた黒人の召使は、少年の失明を薬草によって防いだ。その薬草の効能に群がる白人たちに、召使は巧みに言い逃れして、結局何も教えなかった。

「二つ目の小屋」The Second Hut
少佐は農場の監督のために雇ったアフリカーナ(オランダ系白人)と黒人労働者の間に立って、すっかり消耗してしまった。

「厄介もの」The Nuisance
三人の妻を持つ農場の牛追いは、牛の扱いはうまいが、女房たちを扱えない。とうとう一人を厄介払いした。

「デ・ヴェット夫妻がクルーフ農場にやってくる」The De Wets Come to Kloof Grange
農場監督として雇ったアフリカーナが年若い妻を連れてきた。あまりに物を知らないその妻に、農場主の妻が世話を焼こうとするのだけれど・・。

「リトル・テンビ」Little Tembi
農場主の妻は現地人相手の診療をしていて、赤ん坊の時に命を助けた黒人少年テンビを特別に可愛がった。増長していくテンビをどう扱ったものか。

「ジョン爺さんの屋敷」Old John’s Place
隣の農場に引っ越してきたレーシー夫妻と男。農場の少女ケイトは、優雅なレーシー夫人に憧れた。男二人のつながりの強さ、周囲の雰囲気と相容れないレーシー夫人の悲しみが少女の目で描かれる。

「レパード・ジョージ」’Leopard’ George
金持ちで独身のジョージは、父の農場で働いていたスモーク爺さんを現地人親方として雇った。万事うまくいっていたはずなのに、ある時・・・。

「七月の冬」Winter in July
ケニスとトムは異母兄弟でその絆はきわめて強く、ケニスと結婚したジュリアと三人で農場に住んでいる。危ういバランスの上に成り立つ関係だが、トムが結婚することになった。

「ハイランド牛の棲む家」A Home for the Highland Cattle
移民ブームで住む家が見つからないジャイルズ夫妻は、短期間フラットを借りた。周りの雰囲気に溶け込めない妻は、前の住人から受け継いだ黒人召使の待遇を改善し、周囲の顰蹙をかった。さらに事態が進んで・・。

「エルドラド」Wldorado
金鉱探しにとりつかれた農場主は農場をほったらかしに。年若い息子に期待をかけて、妻はもう夫をあきらめている。ところが息子まで金鉱探しに熱をあげはじめた。すこし喜劇的な最後。

「アリ塚」The Antheap
白人と混血児の少年二人の交流を描く。金鉱主マッキントッシュ氏の混血の息子ダークは、見捨てられた状態なのに、マッキントッシュ氏の雇い人技師の息子トミーは彼に可愛がられている。

「空の出来事」Events in the Skies
飛行機に憧れたという黒人の話に共感したわたしだが、パキスタンのアフガン難民の少女が思う故郷の空に飛び交う飛行機には機関銃と爆弾が積まれていた。