壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

その名にちなんで

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その名にちなんで ジョンパ・ラヒリ
小川高義訳 新潮クレストブックス 2004年 2200円 

ラヒリの第二作目は、短編集「停電の夜に」最後の「三度目で最後の大陸」と同じようなテイストをもった長編です。

ゴーゴリという変わった名前を持つ男の子は、カルカッタからボストンに渡った両親の間に生まれました。父親の忘れられない体験にちなんだこの名前に、だんだんと違和感を持つようになったゴーゴリ

長年アメリカに住んでも祖国の風習を守り続ける両親との距離を置くようになりながらも、自分の中にもあるインドを捨てきれず悩むゴーゴリ。そんな息子を寂しく感じながら、わずかづつ変化を受け入れていく母親。

そんな親子の関係は、急激に変化する社会に住む我々すべてに普遍的なものでしょう。ラヒリさんの描く移民とその二世の親子の物語はそれを鮮明に浮かび上がらせています。

名前って不思議です。仮につけられた名前でもその名で呼ばれるうちに自分自身のものになっていく。ゴーゴリとニキルという二つの名前は、引き裂かれた二つの自分。

ほとんどが現在形の短い文章で、日常の出来事や気持ちがあっさりと語られるだけなのに、なんでこんなに素晴らしい物語が生まれるのか不思議なくらいです。客観的な描写の中に静かさはあっても、冷ややかさはありません。

映画も公開中だとか。万人の胸に染み入る作品だといいですね。