壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

インドの衝撃

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インドの衝撃 NHKスペシャル取材班
文藝春秋社 2007年 1800円

少し前にインドを旅行してきた友人が、インドのすごさを話してくれたことがあります。また最近になってゴーシュラヒリというインド系作家たちの作品を読み、インドに興味をもちました。そういえば、今年の一月にNスペで三回にわたって放送した「インドの衝撃」。ほんの一部見ただけで再放送も見逃しました。というわけで、単行本化されたものをさっそく。番組として放送されたものだけあって、どのエピソードも面白くて総括もわかりやすく書かれています。

インドはイギリスから独立した後に、荒廃した国内産業を復活させるため、社会主義的な経済体制をとっていましたが、1991年に経済が破綻しかけ市場開放に踏み切りました。頭脳立国を目指したネルーの夢は世界のIT化の波に乗り、IT立国インドとして世界の注目を集めています。

さらに、IT産業の成功に引きずられるようにして他のサービス産業も盛んになり、今インドの新中間層を中心に消費が拡大し、伝統的なインド社会が大きく変わろうとしています。人口の半分以上の貧困層は、こうした経済成長の影響を直接受けることはないけれども、スラムですら消費傾向が変化しているという見方もあるそうです。また都市部と農村部の格差は非常に大きなものです。立国以来の多党制民主主義のため地方州で大きな政権交代が起きることがあり、それが中央政府の推し進める経済成長政策にブレーキをかけることもあります。

インドに存在するこのような格差については「光」と「影」と表現されることが多いけれど、「影」とされる農村部の人たちは自分たちが影であることにまだ気がついていないというのが、筆者の一人の印象だそうです。農村部に暮らす人々は、厳しい暮らしに不満や不安があるけれど、「都市部」と比べての不満ではなく、また「グローバリズム」の被害者であるとはまったく考えていませんでした。

農村には貧しいけれどいままでの普通の暮らしがあり、一方で市場開放の恩恵を受け欧米風の豊かな生活を送る人々もいるという、モザイクの状態だそうです。しかし今、世界から大量の資金が流れ込み、そのモザイク地図が崩れようとしているといいます。全体がミックスされ、「影」が「光」の存在に気がつけば、これまでにない大きな反応がインド国内で起きるのではないかという最終章の言葉が何よりも印象に残りました。

放送の後日談もいくつかありました。
第一話のエピソード:インド工科大学(IIT:競争率60倍の超難関エリート大学)を目指して、出身村の期待を一身に受け、ラマヌジャン数学アカデミーで勉強していたアーサード君は無事IITに合格したそうです。そして掘っ立て小屋で千人が勉強しているラマヌジャン数学アカデミーを、放送で知った何人かがNHKを通して援助を申し出たけれど、創設者のクマール氏は寄付を辞退したそうです、「自分たちだけでやりたい」と。

そういえばラマヌジャン「素数の音楽」で詳しく紹介されていた数学者でした。