壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

有機化学美術館へようこそ

イメージ 1

有機化学美術館へようこそ 分子の世界の造形とドラマ
佐藤健太郎 技術評論社 2007年 1580円

有機化学美術館」というHPが本になっていたのを図書館で見つけました。めずらしい化合物のエピソードなど楽しい話題がいっぱいで、よく読んでいたHPでした。日本名をもつたくさんの化合物がありますが、一番笑えたのが徳島大の研究者が合成命名したシクロアワオドリン食品添加物としても使われるシクロデキストリンの仲間ですが、立体構造が輪になって阿波踊りをしているようだというのです。たしかに突き出た側鎖が阿波踊りの手足のようにも見えました。

なんの役に立つのか分からないけれど、とにかく面白い形、美しい形をした分子を有機化学者が作ろうとする情熱は芸術の領域に近いようです。イグノーベル賞の有力候補はナノ世界の人間型分子。レゴでいろいろな形を組み立てるように、原子を使って分子の小人に王冠や帽子をかぶせます。

1930年代に書かれた「レンズマン」シリーズに、「純粋に窒素のみからできていて、核に次ぐ威力を持つ爆薬」の話が出てくるそうですが、窒素が蜂の巣状につながったポリ窒素が110万気圧という条件で実際に作られ、核を除く既存の最強爆薬の5倍の威力を持つとか。SF作家の想像力は凄いとありましたが、レンズマンの作者ドク・スミスは化学の博士号を持っていたはず。想像力だけじゃかけないでしょうね。

有機化学の研究室は3K職場で、「きつい」、「汚い」、「危険」のほかに、「臭い」、「体に悪い」なども入るそうで、世界でもっとも臭い化合物としてギネスブックに登録されているのがエタンチオール。今流行のナノカーボンの話もたくさん載っていて興味深いのですが、圧巻はそれを研究する研究者たちの話。天然の化合物の構造決定と全合成をめぐる二人の研究者の死闘もまた科学を進める上での大きな原動力なのでしょう。