壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ダーウィンのブラックボックス

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ダーウィンブラックボックス マイケル・J・ベーエ
長野敬 野村尚子訳 青土社 1998年 2800円

シマウマの縞 蝶の模様で言及していた創造論者に歓迎されたという本を読んでみました。筆者は生化学の専門家で、生化学に関する記述は非常に分かりやすく、かつ正確に書かれていました。しかしこの本の論点は、生化学的な複雑な過程の獲得をダーウィン進化論によって説明できるのだろうかということであり、進化論が生命の分子構造を説明していない事を示すのが目的であるという事です。

繊毛や鞭毛、血液凝固カスケード、免疫系、生合成系など、分子レベルでかなり詳細が明らかになっている生命現象に関していえば、このような精巧な分子機械をどのように生物が獲得したかの進化的研究が殆どなされていないことはベーエ氏の主張するとおりでしょう。しかし、具体的に研究がされていないからといって、そのことで、“ダーウィンの説では説明する事ができないから無力である”と結論付けることはあまりに性急すぎます。

では、精巧な分子機械はどのように成立したかというと、ベーエ氏曰く、「知的存在によるインテリジェント・デザイン(ID)だ」というのです。ベーエ氏は創造論者ではなくID信奉者でした。ダーヴィニズムを否定しながらも、インテリジェント・デザインは、突然変異と自然淘汰によって生物学的改変が生じた事と矛盾しないと、いいます。ある特定の部分にIDが関わっているそうです。

現在の知識では説明できないところ、つまりブラックボックスは知的存在の証拠だという、都合のいい話です。科学によって、これまでたくさんのブラックボックスが開かれ、そこに新たなブラックボックスが現われ、また解決されるのが、科学の進歩のはずです。

知的存在、知的行為者は特定しない、つまり、神(キリスト教の神)であるとは限らないという事だそうです。インテリジェント・デザイン創造論と本質的にどう違うかは私にはわかりませんが、こんな説明もあります。ベーエ氏については勤め先のLEHIGH大学のHPに、IDはベーエ教授の個人的主張である旨が明記されています。

この本で繰り返し引用・反論されるドーキンスには、新刊「神は妄想である」があります。図書館に予約していますが、580ページの本なのでなかなか順番がまわってきません。