壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

似せてだます擬態の不思議な世界

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似せてだます擬態の不思議な世界 
藤原晴彦 化学同人 2007年 1500円

数日留守にしている間に、近所の水田に水が入り、田植えがすんだ田んぼもありました。蛙も昆虫もまわりに増えてきました。昆虫は見るのも、話を聞くのも好きです。毒さえなければ芋虫も触るのは平気ですが、部屋には入ってこないで欲しいのです。そばで飛び回られるのは苦手なので、本当の虫好きとはいえません。

この本は、主に昆虫の擬態について分かりやすく説明している本だと思うのですが、昆虫の擬態を、人間社会に模して解説しようという編集方針に著者が翻弄されているようで、かえって分かりにくいのです。ハナカマキリやチョウの擬態現象は、人間の行動に喩えなくても、教訓が無くても、元々とても面白い現象だと思います。参考文献としてあげてあった「擬態 自然も嘘をつく」W・ヴィックラー著(1970年)は発売当時に買い今も手元にありますが、ほんとに面白い本でした(内容はほとんど忘れているのですが)。
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擬態の様式による分類で、ベイツ型擬態(毒をもつチョウの模様をまねる、無毒のチョウ)の比喩に、“偽の印籠をかざす偽の水戸黄門”をあげていましたが、水戸黄門自身がベイツ型擬態ではないでしょうか。徳川幕府という強者の象徴である葵のご紋を持っている無力な老人とも考えられますが、どちらもあまりよい喩えではないようです。ホームセキュリティーと契約していないのに、セコムのマークだけ張ってあるマンションなんかは、ベイツ型擬態に入りませんか。

分子生物学から見た擬態は、まだまだ研究の緒についたばかりのようですが、チョウの翅の目玉模様を作る遺伝子のセットと、脚を作る遺伝子のセットは共通だそうです。蚕の話、アゲハチョウの話など、著者の研究分野についてはとても面白かった。化学擬態、分子擬態も面白い。読みたくなった本は梅鉢幸重「動物の色素-多様な色彩の世界」内田老鶴圃。