壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

動物の色素―多様な色彩の世界

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動物の色素―多様な色彩の世界
梅鉢 幸重   内田老鶴圃 2000年 8400円

「似せてだます擬態の不思議な世界」で紹介されていた本です。8400円という値段と内田老鶴圃という出版社から考えて、カラー写真満載の図鑑のような本を想像していたのですが、残念ながらカラー写真は口絵の4ページだけ、全くの専門書でした。でもせっかく、遠い図書館で借りたので面白そうなところだけ拾い読みして、トリビアしておきましょう。

動物の色素は、植物由来のもの、動物が体内で合成するもの、体内微生物由来のもので、これら色素による化学的な色の他に、構造色といわれる表面構造や物質層などによる光の干渉、回折、散乱などが原因の色があるそうです。

金魚が赤いのも、ニワトリの卵の黄身が黄色いのも、フラミンゴの羽の赤い色も、どれもカロチノイドという植物由来の色素によるものです。でもおサルのお尻が赤いのは血液が透けて見えるから。哺乳類の体色にはカロチノイドは関係していないけれど、ビタミンAの材料として重要です。

サケの身(筋肉)が赤いのも餌に由来するカロチノイドですが、産卵の時期になると筋肉の色素が体表に移行して婚姻色となります。だから体表に婚姻色の出ている鮭の身は色が薄く脂肪分が少なく人気がないそうです(でも・・という議論が「美味しんぼ」にあったはず。五十数巻までは読んだけれど、まだ続いているのかしらね)。

フラボノイド系色素も植物由来ですが、カロチノイド系色素よりは分布が限られるといいます。光合成色素ではないから、植物界にも量的に少ないためでしょう。プテリジン系色素は、動物体内で合成されるが分布は狭いようです。

動物の体色に最も重要なのはメラニンで、色も黒色だけではなく、黄色や赤褐色までさまざまなのは、ヒトの皮膚の色をみてもわかります。赤道付近の紫外線の強い地域では、白い皮膚がガンになりやすいなど不利であるのは自明ですが、北欧にはなぜ黒い皮膚が存在しない、つまりなぜ黒い皮膚が不利なのでしょうか。それはビタミンDの生成が低下するからだというのです。

帝王紫といわれる貝の鰓下腺の分泌物は、光に当たって美しい紫に変化します。古代フェニキアより古くから作られていたという貝紫(インドール系色素)は、ギリシャペルシャローマ帝国でも高位聖職者や王族の衣服を染めていました。

キノン系色素のうち、カイガラムシの色素はアントラキノン系でコチニールとして食品にも使われます。メキシコのサボテンにつく昆虫で、「オアハカ日誌」で詳しく紹介されていました。カイガラムシがなぜこんなに多量の色素を含んでいるかは、あまり分かっていないそうですが、他の生物に対する忌避物質らしいのです。人体に対する有害性は低いですが、こんなものを人間は食べているのです。

メキシコからこのすぐれた色素コチニールが入ってくる以前には、地中海地方に生息する別のカイガラムシが赤色色素として使われていました。ヴェネツィアンスカーレットといわれるケルメス染料が有名で、中世ヨーロッパでは赤も権力の象徴だったようです。「ヴェネツィア絵画のきらめき」展で今日見たティツィアーノ・ヴェチェリオの描いた、サロメがまとう赤はそのケルメス染料で染めたものなのかもしれません。
ティツィアーノ・ヴェチェリオ「洗礼者ヨハネの首をもつサロメ
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動物の色の中では、構造色がもっとも面白そうですが、この本では10ページほどで簡単に書かれているのみ。生態学や進化における動物の色の話も知りたいところです。これは別の本を探さなければいけません。