壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

オアハカ日誌

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オアハカ日誌
オアハカ日誌 Oaxaca Journalメキシコに広がるシダの楽園 
オリヴァー・サックス 林 雅代訳 早川書房 2004年1800円

サックスはシダ植物愛好家たち十数名とツアーを組んで、メキシコオアハカ州に10日間の旅に出ます。ミクロネシアの旅(色のない島へ)で、サックスの裸子植物好き、それも古生代の植物好き、が語られていましたが、今度は全編シダの学名でうめつくされています。ただ縦書きで、学名がカタカナですので、ラテン語のおどろおどろしさは伝わってきません。シダ植物は日陰の湿った場所に生育するような印象がありましたが、乾燥地帯に良く適応したものも多いそうです。そういえばワラビは、日のあたるところに良く生えています。マツバランも葉が細くてシダには見えないけれど、シダ植物です。
もちろんシダの話ばかりでなく、サックスばかりか、一緒に旅行した人々がかなりのオタク人種ですので、動植物、鉱物食物という博物学はもちろん、メキシコの歴史から、その他ありとあらゆる薀蓄がちりばめられています。これがほとんど日誌として書かれているのがすごい。

サックスの薀蓄はおもに、メキシコの植物由来の毒物や麻薬向精神薬に関してです。メソアメリカ原産のカカオに含まれるアナンダマイド(内因性マリファナ)とカンナビノイド受容体の話、イポネア(サツマイモやアサガオの麦角アルカロイドリゼルギン酸)、ペヨーテというサボテン(メスカリン)アマゾンの幻覚剤アヤワスカ(トリプタミンとモノアミンオキシダーゼ阻害剤)。ワラビは植物界のルクッレツィア・ボルジアで、若芽は傷つくとシアン化水素を出し、エクジソン(脱皮ホルモン)をもつので、昆虫の異常な脱皮を促すことを始めて知りました。ワラビの発ガン物質やアノイリナーゼ(チアミン分解酵素)はよく聞きますが。

ヒマシ油をとるヒマの種子に含まれるリシンで暗殺されたマルコフの話まで出ていましたが、サックスの向こうを張って、私も薀蓄をたれると、リシンは病原性大腸菌O157のベロ毒素と相同なタンパク質です。リシンは最近の毒殺事件や、ロンドンのテロリストが隠し持っていたことなど話題は尽きません。

さらに薀蓄を仕入れようとネットで検索していたら、アガサ・クリスティーのトミーとタッペンスシリーズ「おしどり探偵 死のひそむ家」早川文庫にリシンの話題があったそうです。このシリーズは、二巻ほど読んだ記憶がありますが、トミーとタッペンスが老夫婦になってからの話もあるそうで、秘密機関 おしどり探偵 NかMか 親指のうずき 運命の裏木戸の5巻うち、たぶん最初の二巻(短編集)を読んだと思いますが、不確かです。全部読みたいけれど図書館にあるかな。

地球上の植物のほとんどは地下の巨大な菌糸ネットワークでつながっている話が、「地中生命の
驚異」デヴィッド・ウォルフにあるそうです。この本は聞いたことがあります。読書予定に入れておきます。
地中生命の驚異―秘められた自然誌 長野 敬・赤松 真紀 訳 青土社(図書館にありました!)

樹齢4000年の巨木ヌマスギ、“トゥーレの木” がこの地方にあります。世界最大の木だそうで、ネットで写真を見たけれど確かに大きいです。これを見に日本から行くツアーが企画されていて、植物好きが多いことに感心します。世界最古の木、樹齢六千年ブリッスルコーン(松の木)がカリフォルニアに、リュウケツジュカナリア島にあるそうです。屋久島の縄文杉はそんなに古くないのかしら。

ホタルを三匹飲むと死ぬという話で、何の毒なんでしょう。ウチワサボテンのカイガラムシからコチニールの粉末を1ポンド取るのに、7万匹が必要とか。

腰痛でオプションツアーに行けなかったサックスは、オープンカフェでこの日誌を書きながら、「苦労しながら化学の本を延々と書き続けるのはもう飽きた!」とぼやいています。きっと「タングステンおじさん」のことでしょう。そういえば、タングステンおじさんは、少年時代の生き生きとした化学実験の描写から、最後にようようのことで量子化学にたどり着き、一般化学概論のようになってしまったのでしたね。

サックスの最新刊はまだ出てないのかしら。共著で「消された科学史というのがありました。図書館にありました。図書館えらい!リクエストかな。図書館は本をどう選ぶのでしょう。