壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

香子(三) 帚木蓬生

香子(三) 帚木蓬生

PHP研究所  図書館本

香子(二)に続けて、500頁にまた一週間かかった。

香子(紫式部)の物語は、中宮彰子への御進講を依頼され、彰子が皇子を出産して道長が権勢を振るい始めるころまでが描かれている。紫式部日記の内容も盛り込まれているのだろう、内裏での華やかな儀式や催しの描写が詳しい。『源氏物語』は「乙女」から「上若菜」までを扱っている。光源氏の六条院が完成し、太上天皇に準ずる位にまで上り詰める様子は、香子の現実と呼応している。読んでいるうちに、どちらの物語なのか一瞬分からなくなることがある。香子の現実と香子の紡ぐ物語が溶け合ってしまうのだ。

ついうっかり現代的な視線で『源氏物語』をよむと、貴族のセクハラ・パワハラ男たちに腹がたち、女たちの階級差別にあきれる。ツッコミどころ満載なのだ。六条院なんかハーレムそのもの。

ところが、「香子の物語」の中での当時の読者たちの視線で読むことで、『源氏物語』そのものの面白さが増してくる。政治的な駆け引きの中で生まれる複雑な男女関係、スキャンダラスな秘密、それがあからさまには書かれずに読む人の想像力にゆだねていくやり方など、巧みな書き方に改めて驚いた。

源氏物語』のストーリー構成も巧みだ。帚木さんの作家としての視線なのだろう、光源氏の流刑先を「須磨」にした理由、大団円のように終わる「藤裏葉」から先(第二部の「上若菜」)をどうするかという思索に、納得する。

女三の宮が源氏の元へ降嫁してきて、波乱含みの展開が予想される『香子(四)』を続けて読もう。失われてしまったのか、書かれなかったのか、謎の「雲隠」の帖をどう扱うのか、楽しみだ。