壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

香子(二) 帚木蓬生

香子(二) 帚木蓬生

PHP研究所  図書館本

香子(一)に続けて、内容の濃い500頁に一週間かかった。

香子(紫式部)の結婚と出産、父母の帰京、祖母の死、夫宣孝の死、中宮への出仕と変化していく時に、源氏物語のどの部分が書かれていったのかがわかるように構成されている。『源氏物語』の紅葉賀から朝顔までの各帖が、香子のライフステージと共に提示されている所が面白い。

祖母や夫と死別したことの哀しみから逃れるようにして書いた「須磨」の帖では、登場人物たちの切ない感情が細やかに表現されている。それに続く「明石」の帖では、明石の入道の滑稽な場面が書かれていいて、香子が少し元気を取り戻したように思える。帚木蓬生氏自身の思い入れが強いのだろう、「蓬生」の帖の前には詳しく解説が入っている。源氏物語の「蓬生」は短いけれど好ましい。香子が中宮彰子のもとに出仕し、内裏の華やかな様子を見た後には、『物語』のなかでも、華やかな美しい衣装についての記述がある。明石の君が娘を手放すあたりの迷いと哀しみがより伝わるのも、香子に娘がいるからかもしれない。人の親の心は闇にあらねども 子を思う道にまどいぬるかな という後撰和歌集の歌が、『物語』の中で幾たびも下敷きにされている。 

また、香子が『物語』を一帖書き上げるたびに、家族や知人が感想を寄せてくる。書写によって『物語』は拡散し、一帖書くたびに、次を待ちかねていた読者の声が香子に届く。現代の連載小説や連続ドラマのように、フィードバックがある様子が面白い。中宮彰子の局で女房達が、香子を囲んで好みの登場人物を評し、「何だか、雨夜の品定めみたいになってきた」と笑う場面が楽しい。さらに、同僚の女房に問われて、「桐壺」と「帚木」の間に、破棄した帖があることを、香子は仄めかしている!(丸谷才一の『輝く日の宮』をそのうち読もう。)

当時の女性の読者は、人間関係・男女関係の機微を詳しく読み取って楽しんだのだろう。また下敷きとされている歌や漢詩・故事を読み取るだけの教養が読者に求められている所が非常に多い。当時の男性の読者に人気だったのは、その点にもあるのだろう。

次巻(三)を続けて読む。