壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

香子(一) 紫式部物語  帚木蓬生

香子 紫式部物語  帚木蓬生

PHP研究所  図書館本

香子(かおるこ:紫式部)の『源氏物語』のメイキングともいえる作品だった。式部は如何にして源氏物語を書き上げていったのか。香子の視線で語られる紫式部の生い立ちと、香子が書く『源氏物語』が作中作のように、並行して交互に綴られていくのがとても面白い。

源氏物語』は光源氏の話ではあるが、香子が本当に書きたかったのは女たちの物語なのだろう。世の中や男たちに、そして時代に翻弄される女たちの姿が浮かび上がってくる。香子の実体験が物語に入り込んで、千年も昔の物語なのに現実味が感じられて、不思議な感覚になる。

源氏物語(現代語訳)』はもちろん、『紫式部物語』の中にも和歌や漢詩が多数引用されている。半世紀も前の高校時代に古文や漢文を学んでおいて役にたったと、改めて思った。半世紀も前に読んだ現代語(円地文子)訳の『源氏物語』のストーリーは覚えているが、今になってその面白さが分かる気がする。

紫式部物語』の部分で、平安という時代の背景や人々の暮らし、貴族たちの素養としての和歌、漢詩舞楽催馬楽などの文化が詳しく説明されていて、『源氏物語』の解説書の役割も担っているようだ。

本書は全五巻のうちの第一巻で、昨年末に出版されている。帚木蓬生氏が十年の歳月をかけて書き溜めたものらしい。1979年『白い夏の墓標』でデビューした当時からのファンではあったが、今までに王朝文学関係の作品は無かったので、帚木蓬生というペンネームが本当に『源氏物語』に由来するという事を初めて知った。第五巻まで毎月順次出版されているようだが、今年の大河ドラマを意識しているのは出版社の方だろう。ドラマはドラマとして楽しんでいる。

第一巻では『源氏物語』は、桐壷、帚木、空蝉、夕顔、若紫、末摘花までが書かれた。香子は父の任地である越前国から京に戻り、物語を書き続けている。一条天皇の御世も十年以上になる頃だ。

第二、三巻を図書館で借りたので続けて読もう。