壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

稚児桜  澤田瞳子

稚児桜 能楽ものがたり 澤田瞳子

淡交社  図書館本

能楽を下敷きにした八編の物語。テレビでしか能を見たことが無い(それも何回か)ので、能の原曲との関連を推し量る事さえできない。あらすじをネットhttps://noh-sup.hinoki-shoten.co.jp/で確かめただけだが、それとはかけ離れた、どこまでも人間臭い物語になっていた。

「やま巡り」―『山姥〈やまんば〉』・・・捨てられた娘と母親との邂逅

「小狐の剣」―『小鍛冶〈こかじ〉』・・・男に捨てられた娘の苦悩

「稚児桜」―『花月〈かげつ〉』・・・父親に捨てられ、稚児として生きる少年の覚悟

「鮎」―『国栖〈くず〉』・・・壬申の乱に巻き込まれた娘の選択

「猟師とその妻」―『善知鳥〈うとう〉』・・・夫に去られた妻のしたたかさ

「大臣の娘」―『雲雀山〈ひばりやま〉』・・・母親に捨てられた娘のひそやかな復讐

「秋の扇」―『班女〈はんじょ〉』・・・遊女と男たちの騙し合い

「照日の鏡」―『葵上〈あおいのうえ〉』・・・巫女から見た物語は源氏物語とも能とも違う

素人から見ると、能は「様式美の上に描かれる静謐なもの」というイメージがあるが、本来はドロドロとした人間の恨みや復讐、嫉妬といった感情が浄化されたものなのかと思う。

能楽を題材にした三島由紀夫の『近代能楽集』は未読なので、そのうちに読もう。