壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

わたしはわたしで  東山彰良

わたしはわたしで  東山彰良

書肆侃侃房   図書館本

6編の短編集です。辛い人生とどう向き合うのか、重い選択を迫られる話も、巧みな語りに乗せられて面白く読みました。『流』の後日談があるというので、『流』を先に読んでおきました。

I love you Debby」には『流』の登場人物が出てきます。語り手は葉秋生の小学校時代の遊び仲間のようですが、唐哲明という名前は『流』には出てきませんでした。アメリカに渡り娘と二人きりになった語り手が、世話になった暁叔父の80歳の誕生日に台湾へ帰国します。オリンピックの頃に兄弟で東京に出稼ぎに出かけ、一人帰国した暁叔父。兄(哲明の父)に何があったのか、家族に対する複雑な思いが語られます。

ドン・ロドリゴと首なしお化け」はメキシコの療養施設に暮らす元殺し屋と介護士の青年が出会うのが首なしお化け。麻薬カルテルや死者との距離が近いメキシコだったら、こんな話も不思議ではないのかもしれません。

モップと洗剤」とは、ネットに動画をアップしている高校生くらいの少年二人のハンドルネームです。父親を殺した犯人らしき男の情報をネットに晒した結末が怖いホラー風味です。

わたしはわたしで」:コロナ禍で失業した女性は行き詰まって小説を書き始めましたが、それもうまくいきません。不倫相手と別れ金銭的に困って就活して打ちのめされ、ボロボロになって、小説を書く意味を次第に自分の物にしていく話です。

遡上」:ヤッスこと安永幸太郎は〈ぼく〉の幼馴染です。ぼくは東京の大学を出て出版社で働き、ヤッスは漁師町に残って一人前の漁師になりました。同窓会で故郷に戻ったぼくは、ヤッスの思いがけない姿を知るのです。

REASON TO BELIEVE

コロナ禍で失業した女性は、ソープで清掃の仕事をしているけれどイヤな事も多い。でもそのソープさえ潰れてしまい、職を転々としているという閉塞感が語られています。