流 東山彰良
著者の最新刊を図書館で借りたのだが、本書『流』を購入したまま読んでいないことに思い当たった。10年近く前の直木賞受賞作で評判になった当時から、読みたいと思っていた本なのに、Kindleの中に隠れていてすっかり忘れていた。
日中戦争の時代を生きた祖父が殺された1975年。発見者である孫の17歳の秋生が語る、台湾を舞台にした青春小説という括りで、もう少し重苦しい話かと思っていた。ところが軽さというか疾走感があり、面白くて勢いよく読み切った。
経済成長に向かって行く手前、大きく変わろうとしていた時代の台湾で、17歳の少年が恋や学業や家族・友人関係に悩みながら藻掻いている。やくざとケンカし、兵役に取られて酷い扱いを受ける。語り口に勢いがあり、ユーモラスなエピソードがたくさんあるせいか、暴力や流血事件が書かれてはいるが陰惨にならずに読み飛ばせる。
台湾のその時代の状況が感じられ、幽霊が出てくるような不思議話にさえリアルな手ごたえがあった。……台湾のゴキブリは相当に大きいらしい。そのゴキブリが……細かいエピソードが満載なのだが、祖父の殺人事件の犯人を追って最後は大陸に渡るストーリーも一貫していて、物語の勢いに圧倒された。
『歩道橋の魔術師』の舞台となった台北の中華商場は、台北の人にとってノスタルジーの源らしい。
後日談が『わたしはわたしで』にあるらしいので、続けて読もう。