「あのころはフリードリヒがいた」の続編にあたります。「フリードリヒ」では1925年から1942年までが、本編では1933年から1943年までが描かれています。ですから時間的な続編ではなく、語り手が同一人物であることも、明示されていません。同じアパートにフリードリヒという名のユダヤ人の少年がいるということだけがあっさりかかれています。
「ぼく」という語り手に名前が与えられていないことは、「ぼく」がある特定の少年ではなく、当時のごく普通の少年の一人ということなのでしょう。優等生のハインツ、反抗的なギュンター、ごく普通の少年の「ぼく」がヒトラー・ユーゲントに入団し、さらに志願して戦争に赴くまでのエピソードが、淡々と描かれています。
わたしは、あの時代をどのように体験し、どのように見たか―それだけを、ここに書き伝える。 わたしは参加していた。単なる目撃者ではなかった。 わたしは信じていた―わたしは、もう二度と信じないだろう。 ハンス・ペーター・リヒターナチスの大会での熱狂的なヒトラー支持、ユダヤ人の商店の襲撃、そこにぼくたちは単なる目撃者ではなく、自ら参加していたと語る著者の思いは、感傷を排した描写に強く滲み出ています。「ぼく」とギュンターは新兵として、東部戦線で見習い士官となったハインツに再会しました。ハインツは「ぼく」たちの目の前で銃撃戦にまきこまれて・・・。