壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

桜ほうさら  宮部みゆき

桜ほうさら  宮部みゆき

PHP研究所   図書館本

きたきた捕物帖』の舞台となった富勘長屋には、以前に若いお侍さんが住んでいた…というのがこの話。順番が逆になってしまったが、それほど支障は無かった。居心地のいい長屋なのか、みんな長く住んでいる様子で、知っている人びとがたくさん出てきて楽しかった。

冤罪で父を失った古橋笙之介は国元を追われた。江戸で父の濡れ衣を晴らすべく、父の書いた文書の手跡をわずかな手がかりとして事件の糸口を探す。学問は出来ても剣術の苦手な笙之介は、写本の仕事をしながら長屋で暮らし、長屋の人々のやさしさとあたたかさに癒される。

笙之介は別の事件にも寄り道しているので、解決に至るまでに600頁もかかった。のんびりとした雰囲気の挿絵と穏やかな語り口の人情物ではあるが、最後は大団円というわけにはいかない。心の底に澱のような黒いものが淀んだままだ。宮部さんの描く心の闇はここにもあった。

10年ほど前にNHKのドラマになっているそうだが、原作で充分か。