睦月童(むつきわらし) 西條奈加
かわいらしい表紙です
ファンタジー時代小説かと読み始めました。
酒問屋の跡取り息子・十七歳の央介が悪い仲間と連れ立っている事を心配して,父親が陸奥の山奥から江戸に連れてきたのが,不思議な力をもつイオという十歳の少女でした。罪人がイオの眼を見ると,犯した過ちを白状しなければならなくなるというのです。改心した央介はイオと共に,市内で起こる事件を解決し始めます。
人情ミステリ時代小説かな?と思い始めましたが…
イオが住んでいた睦月の里の者は皆,睦月神の子供だというのです。そしてある事件をきっかけに央介とイオは陸奥の山奥にある隠れ里のような睦月の里に向かいます。そこはなんと深い洞窟の奥にあるおどろおどろしい睦月神の居る所でした。
伝奇SF時代小説じゃないですか!
里の女たちは睦月神と共生関係にあり,若さと美貌を保つ代わりに,女児を出産した後は生きていられないというのです。洞窟から生還した央介とイオと赤ん坊は,…十八年後…。イオは睦月神の呪縛から解き放たれるのでしょうか。
早ウ我ヲ食ライ、我ノ糧 ナラン。サスレバ、永久ノ若サト美ヲ与エン。
美しくないと嘆き、若さを失うことを恐れる女はいくらでもいる。永久の美を、永久の若さを求める気持ちが、絶えることはない。それが女子の本性である限り、男が若く美しい女子を求める限り、睦月神たる睦月草も決して絶えることはない
ジェンダー観も絡んできます。
盛りだくさんですが,あっという間に楽しく読み終わりました。
読み終えて,「オシラサマ」を思い出しました。東北地方の神様といえば,柳田邦夫の『遠野物語』の「オシラサマ」ですが,半村良の『産霊山秘録』の「ヒ一族」や「オシラサマ」の雰囲気の方が近いと思います。あらすじはほとんど覚えていないけれど,強烈な荒唐無稽さは印象にあります。半村作品の多くが電子化されているので,読み返してみよう。