壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

我らが少女A   髙村薫

我らが少女A   髙村薫

毎日新聞出版  図書館本

12年前に未解決となっていた殺人事件が、一人の女の死をきっかけに動き出した。合田雄一郎シリーズの六作目の舞台は、野川公園を囲む狭い地域で、登場人物もごく少ない。12年前の殺人事件の捜査に参加していた合田は、その後公園近くの警察大学校の教授となっていた。事件当時15歳だった「少女A」は被害者(元美術教師)の教え子だった。12年後に風俗嬢となって殺されるまでに何があったのか、彼女とその友人や家族の人物像が精緻に描き出されていく。

「少女A」が被疑者として捜査の対象にはなるが、本人が死亡している以上、ミステリとしての完全解決には至らない。しかし、ごく少ない登場人物の心理と感情が高い解像度で描かれて、十分な読み応えがあった。読めば読むほどに、リアルな人物が立ち上がってくる。周囲の人々のいくつもの記憶の断片から、すでに亡くなっている12年前の被害者と「少女A」の輪郭も少しずつ見えてくる。硬質な文章は好みではあるが、手強くもあった。

舞台となった武蔵野の一地域は私の日常生活圏ではなかったが、近くで長く暮らしていたので土地勘があって、その土地の風景が目に浮かび、懐かしく思い出した。住宅地と公園の雑木林が入り組んで存在し、野川の流れと国分寺崖線(はけ)の高低差、鉄道の高架線など、独特の雰囲気がある。著者はこの付近の生まれなのかと思ったくらいだが、大学時代を過ごした土地だったらしい。

合田雄一郎シリーズは三作目までは既読だが、四作目、五作目を飛ばしてしまった。さかのぼって読みたい。電子化されていないが、音声化されている。オーディブルのお試し期間なので聞いてみた。朗読はなかなか良かったのだが、耳からの読書はやはり性に合わない。心地よさに30分ほどで入眠してしまうが、聞き取れない語句が気になって、やはり活字を確かめたい。老眼がすすんでいるので、電子化してくれないだろうか。

 

我らが少女A 挿絵集

毎日新聞出版  図書館本

毎日新聞の連載小説で、挿絵作家を毎日変えるという企画があったという。二十数名の挿絵と写真が一冊の本に集められていた。文章との対応が付きにくいが、パラパラ眺めていると、ああこの場面はここだな!とわかる場合がいくつもあった。