壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

火星の砂  アーサー・C・クラーク

火星の砂  アーサー・C・クラーク

平井イサク訳  早川書房  電子書籍

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『火星○○』三冊目です。火星から戻ってこられません。昨今は火星探査で米中が競争していて,どこの国が一番早く火星の岩石サンプルを持ちかえるのでしょうか。かつてはSFでのみ到達可能であった有人探査も,今はもう技術的には可能なのでしょう。この『火星の砂』は1951年に書かれた,私と同じ歳の古いSFです。70年前には人類は火星に対してどんな期待をしていたのかな。

 

火星-地球間の定期航路客船として初めて作られた宇宙船アーレス号の最初の乗客として,火星に向かうことになったSF作家マーティン・ギブスン。彼の書く記事での宣伝効果を期待されていたのだ。火星のドーム都市は呼吸できる大気で満たされ,すでに多くの人たちが働いていた。最初はルポライターとしての役目しか感じていなかったギブスンだが,火星人(?)を見つけ火星の秘密を知るうちに,火星の未来に深く関わりたいと思うようになった。

 

この本が書かれた当時は,人工衛星がまだ打ち上げられていない時代(スプートニク以前)でした。SF的な最先端の技術が盛り込まれていたのでしょうが,現実が小説に追いついた今では,あり得ない設定と古びてしまった旧式の技術がアンバランスに混在しています。でも宇宙旅行が人類にとって,夢と冒険であるという面はよく伝わってきます。(現在は宇宙開発が現実味を帯びてきて,国家間の競争や経済的思惑など夢だけではありませんが,それでも宇宙探査にはそそられるものがあります。)SF的な要素以上に,人間模様を描いた面白い小説として,肩の力を抜いて読むことができました。