壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

心淋し川  西條奈加

心淋し川  西條奈加

集英社文庫  電子書籍

連作短編の時代小説。5編の短編と1編の中編という構成だ。読み終えて半村良の『どぶどろ』を連想した。5編の短編では、古びた貧しい長屋に住む人たちの暮らしを描いている。独立した短編としても成立する。最後の中編で、もう少し大きな話がその全体を繋いでいる。形式は似ているが、読後感は正反対とも言える。『どぶどろ』では貧しい人々の絶望を描いていたが、本書では心に淋しさを抱えた人々のかすかな希望を描いていて、いかにも西條奈加らしい。

心淋し川(うらさびしがわ)というのは、江戸千駄木界隈の小さな淀んだ川で、その近くにある貧しい長屋が舞台。19歳で仕立物をしている、ちほの恋の行方を描く「心淋し川」。4人の妾が一軒に同居しているなかで、りきが自分の居場所を見つける「閨仏」。小さな飯屋を受け継いだ与吾蔵が出会った少女の歌う「はじめましょ」。大店のお内儀だったが、体の不自由な息子と暮らす「冬虫夏草」。根須遊郭に売られた、けんかっ早いようの「明けぬ里」。長屋の差配である茂十の、隠された過去が語られる「灰の男」。幸せと不幸は裏表、さびしさとあきらめと希望が一体となって、心が震えるような話だった。

西條さんの直木賞受賞作を読みたいと思ってから2年以上たった。文庫本になって買える値段になり、やっと『心淋し川』にたどり着いた。70歳を過ぎたら、新刊が出たらすぐに読むという贅沢は出来ないが、それでも本が読めるというのは幸せなことだ。視力が衰え、集中力がなくなり、読んだ本の内容もすぐ忘れてしまう。でも、こうやって読書記録を書くことで、少しはボケ防止になる……といいが…。