壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

飛族  村田喜代子

飛族  村田喜代子

文春文庫  電子書籍

蕨野行』でも『エリザベスの友達』でもそうだったが、村田さんの描く婆さんたちの魅力的なこと! 生死の境を軽々と乗り越えて、身体は動かなくなりつつも、海と空を自由に羽ばたくような精神を持っている。面白くて、わくわくしながら読んだ。

年寄り二人は仏壇の前に平べったい豆のように座っている”のに、海に面した崖の上で不思議な踊りを踊る。”「たぶん、鳥になる練習をやってるんです」”と・・・。近くの島で行われた葬式で、“95歳の年寄りの穏やかな旅立は、天気の良い朝に洗濯物を竿に掛けるような感じだ。”   なんか、わかるわ~。

 

東シナ海に面した島嶼群の小さな島には、三人の女年寄りが住んでいた。海女をしていた最年長のナオが98歳で亡くなり、92歳の鰺坂イオと88歳の金谷ソメ子は、島で一人暮らしをしている。イオの娘で65歳のウミ子は、母を自分の住む大分県に連れて帰りたいが、イオは島を離れることなど考えていない。住人の少ない離島のインフラ(電気、ガス、定期船)を確保するために、自治体は多額の予算を費やしているが、年寄りたちはそんなことを知らない。しかし国境に近い島では、無人島の存在は不都合でもあるらしい。密航者や密漁船を防ぐ砦としての役割があるという。あるとき、強い台風がやってきた。

 

国境に近い小さな島の暮らしも興味深い。過疎の村と言えば山奥を思い浮かべるが、過疎の島は無人島の一歩手前なのだ。島に伝わる不思議なお経の言葉は、島の歴史を包含している。役場の広報係の青年と住民たちとのやりとりは笑いを誘う。そして何よりも、島と海と空を描写する素晴らしい文章に感動した。 『姉の島』も読もう。