壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

海洋プラスチック汚染  中嶋 亮太

海洋プラスチック汚染  中嶋 亮太

岩波科学ライブラリー Kindle unlimited

プラスチックによる海洋汚染の問題については、断片的な知識しかなかった。深刻な環境問題だとは聞いていたが、その問題点と解決策について、改めて考えさせられた。著者はJAMSTECの海洋プラスチック動態の研究者。

多量に生産されるプラスチックの一部は廃棄されて、管理されないゴミは陸から河川を経て海洋に流れ出す。年間推定100万トン単位が海洋に放出されているが、海の表面にあるプラスチックはそのうち1%位で、あとは行方不明だという。数千メートルの深海でもプラスチックが見つかっている。

大きなゴミ(マクロプラスチック)が海洋生物たちを苦しめていることは見ただけでわかるけれど、マイクロプラスチックは餌として海洋生物の消化管に入り込む。さらに小さいナノプラスチックは消化管から循環器系に入り込む可能性がある。ナノプラスチックは植物プランクトンから始まる食物連鎖を通して人間にも到達するのだ。プラスチックが生体に及ぼす毒性、生態系への影響ばかりでなく、経済的損失についてもわかりやすく説明されている。

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化石燃料に由来しないプラスチックも、生分解性プラスチックも今のところは全面的な解決策ではないという。では、どうしたらいいのか? 現代の私たちの生活からプラスチックをなくすことは不可能だから、“天然素材だけで暮らす”などと唱えているとしたら、それはグリーンウォッシュでしかない。でも個人レベルで出来る最低限の事は、使い捨てのプラスチックをなるべく使わない事、捨てるときにはルールを守る事くらいしかないのが現状なのだと情けなく感じる。

プラスチックの問題は、原料としての資源、海洋汚染や処理する時のエネルギーや二酸化炭素排出の環境問題、温暖化問題、健康被害の問題など複雑だ。生物由来で生分解性のバイオマスプラスチックを大量に使うとしたら、生態系への影響が出てくるのではないか。再生可能エネルギーへの転換がなかなか進まないのと同じような問題がありそうだ。

結局、この大量生産、大量消費のシステムに問題があるに決まっているのに、今日もエアコンの良く効いた部屋で過ごすという矛盾に「エコ不安症」になりそうだ。しかし、70年もずうずうしく生きてきた年寄りは、もう「エコ不安症」にはならない。せめて若い世代の負担にならないように、そっと終わりを迎えたい。