壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

神秘の島(上・下) ジュール・ヴェルヌ

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神秘の島(上・下) ジュール・ヴェルヌ
清水正和訳 福音館古典童話シリーズ21、22 1978年 各2000円

ヴェルヌの中でいちばん好きなのがこれです。特に第一部のサバイバル編が面白い。椎名誠の[http://blogs.yahoo.co.jp/rtpcrrtpcr/47900846.html 十五少年漂流記への旅]を読んでたまらなくなって再読しました。

第一部:1865年3月南北戦争のさなか、南軍に捕らえられた五人の男(一人は少年)と一匹の犬がリッチモンドから気球で脱出しようと試み、暴風に流されて南太平洋にある絶海の孤島にたどり着きます。気球が海中に墜落するのを防ぐために、彼らは途中でありとあらゆる荷物を捨ててしまい、着の身着のままで無人島の生活を始めなければなりませんでした。

五人のリーダー的存在である技師サイラス・スミスはまず山に登り、ここが陸地の一部はなく島であることを確認して無人島生活を決意するというように、人間の知性を前面に押し出した展開です。食糧も道具もない中で、島の豊かな自然に恵まれはしましたが、科学技術の知識と実行力でこの絶望的な状況を打破していきます。

身につけていた時計のガラスを二枚張り合わせたレンズによって火を得ることからはじまって、まず陶器を焼くかまどを粘土で作ります。皿や壷が手に入って料理のレパートリーは限りなく広がり、当面の食糧問題は解決しました。

次に、日付とリッチモンドの現地時間と太陽の高度から、現在地を特定します。船を作るべきか家を作るべきか決断するためです。リンカーン島と名づけたこの島は南緯35-40度、西経150-155度にあって、知る限りでは近くに大陸も島もないことが判明し、まず安全な住まいを整えることになりました。

島は火山島で、鉄鉱石、石炭、石灰、硫黄、硝石などの鉱物資源が豊富でした。そこで製鉄を始めます。アザラシの皮で作ったふいごを使って鉄鉱石(酸化鉄)と石炭から鉄を作り、さらに炭素を加えて鋼鉄にして道具類を手に入れました。

より安全な住まいを得るための土木工事に必要な爆薬まで作ってしまいます。黄鉄鉱(主成分は硫化鉄)を焼いて硫酸鉄を得、さらにそれを焙焼して硫酸を取り出します。硝石(硝酸カリ)に作用させて硝酸ができました。ジュゴンの脂肪を、海草を焼いて作った天然ソーダ(炭酸ナトリウム)で鹸化して石鹸とグリセリンを造り、グリセリンを硝酸に作用させてニトログリセリンができました。天然にうがたれた水路を利用して要害堅固なグラニット・ハウスが完成します。

第二部では、漂流物から武器や道具などを得ることができたため、小船を建造して隣の島に行き、仲間が一人増えました。生活はますます充実して農業や牧畜を始めました。第三部では、海賊との戦い、火山の噴火と大事件が起き、とうとうあの謎の人物に出会います。

やっぱり第一部がいちばん面白いなあ。無人島と海賊はどうしても切り離せないのかも知れませんが、海賊との戦いはわりと陳腐です。あの謎の人物の正体は最後にやっと明らかになるけれど、あっさりと書かれていますね。それに比べ、六人と一匹の島からの脱出は大スペクタクルです。

本書は「海底二万里」「グラント船長の子どもたち」と三部作になって(というよりゆるくリンクして)います。「グラント船長の子どもたち」は未読なので、今度是非。本書に次いで好きなのは「地底探検」。
月世界旅行」の続編に「地軸変更計画」というのがあるそうなので、これも読んでみよう。