西のはてにある都市国家の一つ、エトラに住む少年ガヴィアはアルカ家の館の奴隷です。幼いころに姉のサロと共にさらわれて、故郷も姉以外の家族も知りません。でも館では奴隷は大事にされ、主人の一族の子供たちと同様の教育を受けたガヴィアは自分の身分をそれほど不満に思っていませんでした。
ある事件が起きて、信頼していた主人の一族に不信感をもち、ガヴィアは放浪の旅に出ました。森の洞窟で孤独に暮らすクーガ、逃亡奴隷社会のリーダーとして自由を標榜するバーナ、故郷である水郷の村でであった叔父や叔母や目使いのドロドたちと出会いました。
その放浪の中で、自分自身の持つ力(記憶する力や幻を見る力)は何なのか、自由とは何なのかをガヴィアは迷いながら学び、そのガヴィアの成長に読み手はぐいぐい引き込まれていきます。ガヴィアが目指したウルディーレの、オレック、グライ、メマーの暮らすメサンで物語は終わります。心の拠り所を得たガヴィア、でもメサンは物語の大団円の地なのでしょうか。
三部作をル=グィンが語り終えただけで、物語がここで終わりになったとは思えません。「西のはて」の人々の暮らしはこれからもずっと続くのでしょう。彼らはこの先どんな風に生きていくのだろうかと想像をめぐらしたくなる、かといって次の第四部を読みたくてたまらないというわけでもなく、過不足のない素晴らしい終わり方でした。満足、満足。
そしてもう一つの満足は、物語の役割に関すること。歴史の中で書物や朗詠される物語がどんな役割を果たしてきたのかが見事に語られていることです。
さらにもう一つの満足は、図書館のカバーが、表紙裏の地図を隠さないように工夫して貼られていたことです。図書館の方々、ありがとうございます!