壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

雪  中谷宇吉郎

雪  中谷宇吉郎

岩波文庫  Kindle Unlimited

読んだのはもう50年以上も前です。たしか、岩波新書の赤い表紙だったような気がします。この古典的な科学エッセイが電子版で読めることが嬉しくて、再読しました。すでにパブリック・ドメインに入っているので青空文庫にもありますが、解説を加えた岩波文庫を読み放題で読みました。

日本の雪害についての考察から始まり、雪の華の研究観察史、後半は雪の結晶の分類と人工雪の研究が詳しく述べられています。様々な形態の雪が、どのような大気の条件の中で形成されていくのかを探求する道筋が、実際の観察と実験の記録によって記されています。これを読んでいると、寒い戸外や実験室の中で自分が研究観察にかかわっているような気がするくらい、臨場感に溢れています。と同時に、実際の実験方法を超えた自然科学の方法論のようなものまで、なんとなく理解できるようでした。

中谷宇吉郎は寺田虎彦の弟子です。50年以上前の中高生の頃に、寺田虎彦随筆集(岩波文庫全五巻)も愛読していました。もともとは、中学生になって初めて読んだ厚い文庫本が夏目漱石の『吾輩は猫である』で、その中の水島寒月という不思議な登場人物、今でいうところの「理系オタク」のモデルとなったのが寺田虎彦だと知って、興味を持ったのです。

昔のことはよく覚えているのに、昨日のことを忘れがちな老人になってしまいました。

本書に、日本で江戸時代に『雪華図説』(1832年)を著した下総古河の城主、土井利位(としつら)の名前が挙がっていました。そのつながりで次の読書は『六花落々』西條奈加著です。雪華=六花。中島美嘉の「雪の華」も大好きです。