壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

鋼鉄都市  アイザック・アシモフ

鋼鉄都市  アイザック・アシモフ

ハヤカワ文庫  電子書籍

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50年以上前にアシモフはたくさん読んだ記憶があるのですが,科学解説書だけで小説は読まなかったのかもしれません。続編の新訳版『はだかの太陽』を貰ってあるので,まずは『鋼鉄都市』から。1954年に刊行されたSFミステリです。

 

「約70年前に書かれたのに,今でも読み応えのある本です。世界観が明確で面白いからでしょう。地球環境はすでに荒廃し,80億人が人口稠密な閉鎖空間都市のなかで不自由に暮らしています。かつて惑星に移民した人類は宇宙国家連合を形成して,宇宙人として地球に駐留し高度なロボット技術を持っています。そんな中で宇宙人が殺されて,地球人の刑事と宇宙人ロボットの「相棒」が捜査を始めます。ロボットや宇宙人に対する嫌悪感の中で,ロボットとは何か,正義とは何か,地球の未来は?という議論を重ねて相棒の二人は理解し合い事件を解決します。」

 

って255字で読書メーター用に書いたけれど,全然書き足りない!

 

舞台は30世紀未来の地球で,地球の全人口80億人が暮らす鋼鉄都市も原題はThe Caves of Steelというように,日光も外気も入ってこないような閉鎖空間だ。科学技術は進んでいても,人口稠密で一般人は食糧にも住居にも恵まれていない生活を送っている。労働者階級は部屋に浴室もキッチンもなくて,共同食堂や共同浴場を使わざるを得ないし,毎日食べるもののほとんどがイーストに由来する食品で生鮮食品は贅沢品だ。鋼鉄都市(シティ)に暮らす人はシティの外の外気と日光を浴びることを恐怖に感じているので,心理的にシティから出られないらしい。荒野と化した外界で行われる農業・鉱業はすべて作業用ロボットによるもので,近ごろ導入された原始的な人型ロボットが労働者たちのインドアの仕事を奪うという理由で,ロボットに反対し嫌悪感さえ持つ人が多い。

でも地球のエネルギーの枯渇は明らかで,これ以上人類が増えれば破綻することが明白なのに,地球人はそのことを真剣に考えていないようだ。地球人類に未来がない事を心配しているのが実は宇宙人で,早い時期に地球から他の惑星に移住した人々の子孫たちは,人口抑制政策と高いロボット技術で成功し,多くの惑星からなる宇宙国家連合を作り地球に駐留する目的が何かについてはだんだんにわかってくる。地球の未来はどうあるべきなのか,というのがこの小説の肝だと思う。殺人事件とその捜査というミステリはその手段に過ぎないのではないか。もちろんミステリとして論理的破綻もなく,警察小説としてのバディ(相棒)の物語も楽しめた。

三千年後の地球ではエネルギー問題と人口問題が最大の焦点である。解決策として提示されているのが新しい惑星への植民という方法だった。宇宙人たちは地球人を移民として自分の惑星に受け入れるつもりはないのだが,地球人さえ望めば新しい惑星への植民の手助けをするといっている。我々のリアルな現在にはその上に気候変動というとんでもない問題が存在する。もしこのまま温暖化が進めば地球はどうなるのだろうか。それを避ける手段が本当にあるのだろうか。化石燃料文明はどのように終焉を迎えるのだろうか。地球から逃げ出すことは可能なのだろうか。

私に何かできるかどうかは甚だ疑問ですが,とりあえず続編『はだかの太陽』を読みましょうか。