壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

罪悪  フェルディナント・フォン・シーラッハ

罪悪 フェルディナント・フォン・シーラッハ

酒寄進一訳 創元推理文庫 電子書籍

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第一短編集『犯罪』に続く短編集。『犯罪』は罪を犯さざるを得なかった被告人たちの哀しみが描かれた感動作が多かったが,同じようなものを求めていた第二短編集への予想は見事に裏切られた。現実の犯罪記録を装いながら展開するフィクションで,読んでいるうちにノンフィクションであるかのように勘違いしてしまう点だけは同じだったし,町に起きた同じような犯罪を扱ってはいるが,前作とは描く観点が違うのだ。居心地の悪い感じで読みながら,読み終えても納得がいかず置いてきぼりにされた気分だった。悲惨な犯罪を笑うわけにもいかないが,その犯人と事件と裁きの結果に何か可笑しみのようなものを覚えて,いっそう戸惑った。最後の短編「秘密」だけはスッキリと笑えて気持ちの切り替えができて良かった。次は『コリーニ事件』を読もう。

 

「ふるさと祭り」での少女に対する集団暴行事件の救いのない終わり方に腹をたてつつ戸惑う。未成年の時に起こした迷宮入りの事件が「遺伝子」分析により20年たって犯人たちを追いつめた救いのない最後をどうかんがえていいものやら。寄宿学校で少年たちがかぶれた秘密結社イルミナティごっこの意外な結末。「子どもたち」に対する児童虐待で冤罪のまま刑を終えた男の未来。「解剖学」を学んで猟奇雑人を計画する男の誤算。不自然な夫婦関係を続けたのちに「間男」に突然の殺意を持つ男の裁かれ方。アタッシュケースの中の死体写真では罪に問えないが。裕福に暮らす主婦の抑えきれない万引きの「欲求」。麻薬密売に部屋を貸していた老人と密売人と恋人のその後を描く「雪」。大事な「鍵」を犬に飲み込まれてしまった男の悲喜劇。14歳の少女の受けた暴力とその後を描く「寂しさ」。無実の男を拘束した「司法当局」の杜撰。夫のDVに耐えかねた女の清算は正当防衛なのか。成功した実業家は「家族」に犯罪者がいた。陰謀に取りつかれた男の「秘密」