図書館で見かけた厚い本をつい借りてしまいました。明治から昭和初期までの51の短編が集められています。1300ページ超で、2kg以上あるので、机の前にきちんと座って読まなければいけません。いつものスタイルで寝っころがっては読めません。ということで最初の二編を読んだだけで、あとはパラパラ・・・・
漱石の名高い短編、『夢十夜』は「こんな夢をみた」で始まる十篇の不思議な話。再読してみてイメージの鮮烈さに驚きました。暗い夢が何を象徴しているかなんてことは考えずに、ただ文章から湧き出す、美しいもの、ユーモラスなもの、怖いもの、シュールなものなど、さまざまな幻想を楽しんでみました。第十夜なんか「豚たたきゲーム」みたいで、おもしろいなあ。
第二夜
和尚にお前は侍ではない、人間の屑じゃといわれ、悟りが開けなければ自刃すると座禅を組んだがちっとも悟れない。
和尚にお前は侍ではない、人間の屑じゃといわれ、悟りが開けなければ自刃すると座禅を組んだがちっとも悟れない。
第三夜
目が見えなくなった子供を負って田の中の道を行く。子供に操られるように山道をたどり、一本の杉の根かたに辿りついた。百年前の盲目殺しを自覚した途端に、背中の子が急に石地蔵の様に重くなった。
目が見えなくなった子供を負って田の中の道を行く。子供に操られるように山道をたどり、一本の杉の根かたに辿りついた。百年前の盲目殺しを自覚した途端に、背中の子が急に石地蔵の様に重くなった。
第四夜
一人で酒を飲んでいる爺さんが、柳の下にいる子供たちの前に、細く綯った手拭を置いて笛を吹き、蛇になるから見て居ろうと云う。蛇にはならず最後に爺さんは河の中に入ったまま出てこなかった。
一人で酒を飲んでいる爺さんが、柳の下にいる子供たちの前に、細く綯った手拭を置いて笛を吹き、蛇になるから見て居ろうと云う。蛇にはならず最後に爺さんは河の中に入ったまま出てこなかった。
第五夜
神代に近い昔なのか、虜になって敵の大将に死ぬか生きるかと問われ、降参しないという意味で死ぬと答えた。鶏が鳴く前に呼び寄せれば、死ぬ前に一目思う女に逢うことができる。女は馬を駆ったが天探女が鶏の鳴く真似で邪魔をし、女は深い淵に消えた。
神代に近い昔なのか、虜になって敵の大将に死ぬか生きるかと問われ、降参しないという意味で死ぬと答えた。鶏が鳴く前に呼び寄せれば、死ぬ前に一目思う女に逢うことができる。女は馬を駆ったが天探女が鶏の鳴く真似で邪魔をし、女は深い淵に消えた。
第六夜
運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいると云う評判で散歩がてら行って見た。見物人は明治の人間である。仁王が木の中に埋まっているのを鑿と槌の力で掘り出すと聞き、さっそく家へ帰って積んである薪を片っ端から掘ったが、明治の木には到底仁王は埋まっていないものだと悟った。
運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいると云う評判で散歩がてら行って見た。見物人は明治の人間である。仁王が木の中に埋まっているのを鑿と槌の力で掘り出すと聞き、さっそく家へ帰って積んである薪を片っ端から掘ったが、明治の木には到底仁王は埋まっていないものだと悟った。
第七夜
大きな船に乗っているが、西へ向かうのか行方も知らず、いつ陸へ上がれるか分らない。とうとう死ぬことにして海へ飛び込んだが、足は容易に水に着かない。無限の後悔と恐怖を抱いて黒い波の方へ静かに落ちていった。
大きな船に乗っているが、西へ向かうのか行方も知らず、いつ陸へ上がれるか分らない。とうとう死ぬことにして海へ飛び込んだが、足は容易に水に着かない。無限の後悔と恐怖を抱いて黒い波の方へ静かに落ちていった。
第八夜
床屋の鏡越しに庄太郎が女を連れて通る。往来をさまざまな商売人たちが行き交う。代を払って表に出ると、さっきの金魚売りが金魚を見詰めた儘、動かなかった。
床屋の鏡越しに庄太郎が女を連れて通る。往来をさまざまな商売人たちが行き交う。代を払って表に出ると、さっきの金魚売りが金魚を見詰めた儘、動かなかった。
第十夜
庄太郎が女に攫われてから七日ぶりに帰って来て床についている。ある夕方一人の女についてゆくと絶壁の天辺に出た。女に思いきって飛び込まないと豚に舐められますが好う御座んすかと聞かれたが、豚は大嫌いだが命には易えられない。襲い掛かる何万匹もの豚の鼻頭を一頭ずつステッキで触ると、豚はころりと谷の底に落ちていく。
庄太郎が女に攫われてから七日ぶりに帰って来て床についている。ある夕方一人の女についてゆくと絶壁の天辺に出た。女に思いきって飛び込まないと豚に舐められますが好う御座んすかと聞かれたが、豚は大嫌いだが命には易えられない。襲い掛かる何万匹もの豚の鼻頭を一頭ずつステッキで触ると、豚はころりと谷の底に落ちていく。
以下は納められている51の短編です。四分の一も読んでいないようです。
「杯」森鴎外 「夢十夜」夏目漱石 「一口剣」幸田露伴 「拈華微笑」尾崎紅葉 「吾家の富」徳冨蘆花 「武蔵野」国木田独歩 「風呂桶」徳田秋声 「伸び支度」島崎藤村 「わかれ道」樋口一葉 「修禅寺物語」岡本綺堂 「猫八」岩野泡鳴 「外科室」泉鏡花 「青草」近松秋江 「小さき者へ」有島武郎 「死者生者」正宗白鳥 「勲章」永井荷風 「真鶴」志賀直哉 「恭三の父」加能作次郎 「久米仙人」武者小路実篤 「妹の死」 中勘助 「刺青」谷崎潤一郎 「椿」里見 弴 「鮨」岡本かの子 「サラサーテの盤」内田百聞 「生涯の垣根」室生犀星 「虎」久米正雄 「お富の貞操」芥川龍之介 「窓展く」佐藤春夫 「雲雀」藤森成吉 「山の幸」葉山嘉樹 「押絵と旅する男」江戸川乱歩 「アリア人の孤独」松永延造 「ゼーロン」牧野信一 「へんろう宿」井伏鱒二 「機械」横光利一 「渦巻ける烏の群」黒島伝治 「焼跡のイエス」石川淳 「バッタと鈴虫」川端康成 「暢気眼鏡」尾崎一雄 「秋風」中山義秀 「告別」由起しげ子 「闇の絵巻」梶井基次郎 「散歩者」上林暁 「幸福の彼方」林芙美子 「うけとり」木山捷平 「小美術館で」永井龍男 「聖家族」堀辰雄 「心願の国」原民喜 「波子」坂口安吾 「山月記」中島敦「富嶽百景」太宰治