壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

居場所もなかった  笙野頼子

居場所もなかった  笙野頼子

講談社文庫  電子書籍

f:id:retrospectively:20220305223631j:plain

10年以上も前に笙野頼子の作品を何冊かまとめて読んだことがある。自分自身の居場所のなさ・寄る辺なさを私小説風の妄想を駆使して描く『なにもしていない』(1991年),『東京妖怪浮遊』(1998年),『S倉迷妄通信』(2002年)を読んだのだが,この『居場所もなかった』(1992)がその間をつないでいた。

長年住んでいたオートロック付きの1Kマンションを出ざるを得ず,次に住む部屋が見つからないという騒動の上に描かれるのは自分自身の居場所のなさだ。女性で単身で自営業(小説家)というハンディは不動産ワールドでは相当に不利なんだろう,世間の理不尽さと住む場所が無いという焦燥感には身につまされる。

作者は八王子→小平→中野→雑司ヶ谷→佐倉と,東京を東進しながら不安感と疎外感を抱えて,ひたすら妄想し続けた。S倉で猫と共に暮らすうちに居場所ができたのかなとも思うが,『水晶内制度』の強烈さに打ちのめされて「だいにっぽん」シリーズ?はいまだに読めない。