壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

フグはフグ毒をつくらない 野口玉雄

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フグはフグ毒をつくらない 野口玉雄
成山堂書店 ベルソーブックス 2010年 1800円

今年の夏は暑かった、いやまだまだ暑いですが・・。温暖化なのか、海水温の上昇とともに、南の海に生息していた有毒ヒョウモンダコが北上しているというニュースを目にしました。ヒョウモンダコの毒はフグの毒と同じものだそうで、咬まれるとかなりの危険らしい。えーっ、危ないじゃない!・・・・海水浴に行くつもりもなく、フグを食べる機会もなさそうですが、それでも生物毒は気になって仕方がありません。本書には、フグ毒の正体と、食べても安全なフグの肝と白子をめぐって、最新の情報が載っていました。

フグ毒テトロドトキシン(TTX)はフグだけでなく、自然界の動物(ある種のハゼ、貝、カニなど)に広く分布しています。海産動物ばかりか、イモリのような陸上両生類も、共通してTTXをもっています。これはフグが体内で毒を作り出していいるのではなく、海産の細菌類が作る毒が、食物連鎖を経てフグなどに生物濃縮しているためです。小型巻貝の毒にもTTXが含まれています。

自然界での食物連鎖経路は完全に解明されていないようですが、フグの毒が外因性であるという証拠として、注意深く管理した養殖のトラフグ(現在では流通する8割が養殖だそうですが)は無毒で、販売が禁止されている肝臓にすら毒性が見られないという事実があります。TTXを含む餌を与えると一気に毒化するそうです。

TTXは、神経細胞のナトリウムチャネルをブロックするため神経麻痺をおこす強力な毒物ですが、他の動物とは異なるナトリウムチャネルを持っているため、フグはフグ毒中毒にはならないそうです。フグは肝臓、卵巣、皮膚に毒を溜め込んでいます。生んだ卵や稚魚が捕食者に食べられないように、防御の意味があります。毒性を持たない養殖フグは抵抗力が弱いそうで、もっと別の役割もあるみたいで、フグにとってフグ毒は大事なもののようです。ヒョウモンダコは、TTXを唾液腺から分泌する事によって狩にも役立てています。

養殖フグの肝が無毒である事は充分に調べられていて、著者たちはフグ肝の試食会を催してアピールしていますが、まだ販売は許可されていません。フグ肝は仮に海に廃棄されると周辺の貝に蓄積されたりしますので、有害廃棄物として処理されているそうです。もし養殖フグの肝が販売できるなら、フグ刺しの値段も多少は下がるでしょうが、それでも庶民には縁遠いものかと思います。