壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

人情裏長屋 山本周五郎

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人情裏長屋 山本周五郎
新潮文庫 1980年 520円

山本周五郎作品は昔、新潮文庫でたくさん読みましたが、物置に残っていたのはこの一冊だけでした。処分する前に再読。片付けはいっこうに捗らない・・・。

「長屋」と言えば山本周五郎を思い出すくらい庶民の人情を描いた作品は多いですが、この短編集には娯楽性の強いものが集められています。読んでいるうちに、テレビドラマで見たような気がしていましたが、調べてみるとドラマ化されていたようです。

『おもかげ抄』昭和十二年
長屋に住む腕の立つ浪人鎌田孫次郎は、病気がちの妻椙江をめっぽう大事にしているが、長屋の住人はその妻を見たことがない。
♪「キング」に書かれたものだということで、妻似の女性が登場し、如何にも!という筋運び。

『三年目』昭和十六年
三年前、大工の友吉は博打から足を洗うため、許婚のお菊を親友の角太郎に預けて上方に行った。江戸にもどってみると、角太郎とお菊は夫婦になっていた。
♪友吉と角太郎の友情は『さぶ』の原型。短い作品ですが、クライマックスは洪水の場面で盛り上がります。悲劇にすればもっと盛り上がるでしょうが、娯楽作品なのでもちろんハッピーエンドです。

『風流化物屋敷』昭和二十二年
化物屋敷に引っ越してきた御座平之助は、あまりに世間知らずで夜な夜な現れる幽霊もたじたじ。そんな様子を覗き見する隣家の娘とみは好奇心のかたまり。
♪講談調で語られる滑稽譚がおもしろい。隣家の娘とみはなかなかに賢くて、策略にはまったのは、博打打ちだけじゃなかったのね。

『人情裏長屋』 昭和二十三年
浪人の松村信兵衛は大変な飲んだくれ。でも長屋の住人が困っていると、そっと助けてくれる。新参の住人が置き去りにした赤ん坊まで育て始めた。
♪これはドラマ化された作品。信兵衛の稼ぎの秘密とか、長屋の隣のおぶんちゃんとか、思い出しました。

『泥棒と若殿』 昭和二十四年
荒れ果てた屋敷に入った泥棒は、そこに半ば閉じ込められて住んでいた若殿を見つけた。同情した泥棒は彼の面倒を見はじめた。
♪お家騒動に嫌気のさした若殿だが、やはり武士の生き方を選ばざるを得なかった哀しみが良く表れている最後でした。

『長屋天一坊』昭和二十五年
ごうつくばりの大家が家系図に夢中になり、店子たちにだまされてとんだ御落胤をつかまされる。
♪滑稽物の落語のよう。

『ゆうれい貸屋』昭和二十五年
甲斐性のない亭主に愛想をつかした女房が出て行った。そこへやってきたのは元芸者の幽霊。意気投合してゆうれい派遣業を始める。
♪これもわりと最近TVドラマになっていたらしいのですが、残念ながら見ていません。

『雪の上の霜』 昭和二十七年
浪人三沢伊兵衛は、抜群に腕が立つのに、あまりにやさしい性格のため仕官できない。妻おたよはそういう伊兵衛を暖かく見守る。
♪『雨あがる』の続編。これは映画になったらしい。そういえば題名は見かけた気がします。

『秋の駕籠』昭和二十七年
駕篭かき相棒の中次と六助は仲が良いくせに喧嘩している。いつもは金持ちは乗せないのに、箱根までの客に大金をつまれた。
♪見かけも中味もまったく違う二人の友情が面白い。最後も「めでたしめでたし」だし。

『豹』昭和八年
現代物。兄の死後、兄嫁と甥の住む家を訪れた。近所の動物園から豹が逃げたという。
♪昭和初期にかかれたもの。『須磨寺付近』と同一テーマ。

『麦藁帽子』昭和九年
現代物。吾八老人は昔、恋人から貰った麦藁帽子を持っている。まわりは皆作り話というが・・・。
♪『青べか物語』のなかの『芦の中の一夜』の原型だそうです。昔々ですが、周五郎の時代小説ばかりを読んだ後の『青べか物語』に衝撃を受けたことを覚えています。内容はほとんど覚えていないのですが・・。