壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

浮世女房洒落日記  木内昇

浮世女房洒落日記  木内昇

中公文庫  電子書籍

江戸の小間物屋のおかみさんが綴ったという日記を通して、庶民の生活が描かれています。四季折々の風物、行事しきたり、祭りなど、貧しいけれど楽しそうな長屋の暮らし。子育ての悩み、亭主への愚痴、近所の付き合いも、落語や小噺のように面白おかしくて、読み飽きませんでした。各月毎に江戸の用語の注があって、これも楽しめました。

 

神田界隈に亭主と小間物屋を営む〈お葛〉は27歳で二人の子持ち。亭主はお気楽で働かないので、家計は火の車。隣の浮世絵屋の娘〈おさえ〉が、化粧の相談にやって来る。裏長屋に住む働かない棒手振の六さんは、ご飯時に自分のお椀とお箸を持ってちゃっかりご飯をよそってもらっている。火事場見物に目がない〈お葛〉の推しは火消姿の男たち。

 

いつの間にか長屋の暮らしのなかに入り込んで、お葛さんのしゃべり声を聞いているような気持がしてきました。元旦から始まって大晦日までの一年間だけの日記ですので、住み込み職人だった清さんと、隣家のおさえちゃんの恋の行方はわかりません…。

この日記の由来として冒頭に、「椋梨順三郎という人物が昭和初期に、江戸後期の小間物屋の女房が書いたと思われる日記を発見した。椋梨は現代語訳をしたものの、発表を思い留り天井裏に保存した。二十一世紀になって、その日記を大正初年に建てられた古い洋館の屋根裏で発見したのが著者だという。屋根裏の物音を不審に思った著者が木箱の中に数冊の書物を見つけ、とりあえず一番上にあった一冊を世に出すことにした。」とありました。

この日記は二重の枠に囲まれているようですが、要するに、この日記の続きが著者の手元にまだあるかもしれないという事ですね。続編はあるのでしょうか、なさそうな気もするけど。