かかし長屋 半村良
善人長屋で思い出した本書。未読でした。
大川端にある「かかし長屋」は、証源寺の先代の住職が貧しい人を救済するために建てたものでした。「かかし」のように、毎日同じ着物を着ているというような貧乏人の吹き溜まりですが、住職の教え通りに真面目につつましく暮らしていました。大工や左官、扇職人に古金屋、内職の世話役の婆さんなど、口煩いけれど人情があって、気のいい人ばかり。おかずを分け合って食べるような平和な日常です。
たまには事件もあります。扇職人の勘助は盗っ人稼業から足を洗って地道に暮らしていましたが、元の泥棒仲間が長屋を訪ねてきました。長屋のお袖ちゃんの嫁ぎ先への強盗計画を察知した勘助は…。
長屋の住人、証源寺の住職、近所で手習い塾をやっている腕の立つ浪人など、が協力して、さまざまな出来事を乗り越えていきます。
捕り物がメインの話ではありません。問題をすべて解決するという盛り上がりもありませんが、長屋の暮らしと人々の日常を穏やかに描く中で、貧しくて弱い立場の人々が、損得を超えて助け合っていく姿には心温まるものがありました。
SFでも伝奇でもない、こんなにしっとりとした時代小説も書ける半村さんの間口の広さ! 本書は第六回柴田錬三郎賞の受賞作ですが、手習い塾を開く凄腕の浪人が柴田研三郎という名前なのです。どういう謂れなのでしょうね。
読みたいと思っていた半村さんの『どぶどろ』という時代小説がKindleの読み放題になっていました。『およね平吉~』とも関連のあるストーリーのようで、楽しみです。