壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

地軸変更計画 ジュール・ヴェルヌ

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地軸変更計画 ジュール・ヴェルヌ
榊原晃三訳 ジャストシステム 1996年 1600円

ヴェルヌが「神秘の島」で語る科学技術礼賛に比べ、晩年の作「地軸変更計画」では科学文明を揶揄するような口調が見られます。

月世界旅行』で活躍した大砲クラブの三人が北極開発を目論みました。合衆国政府をバックに列強の間で北極を競りにかけ、まんまと競り落としました。さらに北極の陸地に眠る石炭を採掘するための資金を募り、とんでもない奇策で北極の氷を溶かそうというのです。それが「地軸変更計画」。地球の公転面に垂直になるように地軸を変更するため、三人はまた大砲の力を使うらしい。地軸が傾いていなければ季節がなくて便利だろうと、最初は安易に賛成していた人々が、海面の大変動の危機を知って大反対するのです。そうなると大砲クラブの三人は指名手配されて一人は牢獄に捕らえられます。でも後の二人は行方をくらまし、秘密の地で計画を続行。もう手遅れ?

ちょうど120年前(1889年)の作品です。当時は北極の氷冠の下に陸地があるのかどうか議論の余地ががあり、石油はまだエネルギーとしては主流でなかったでしょう。石炭の独占を狙う合衆国とそれを阻止しようとする欧州の国々のやり取りは、石炭を石油に置き換えれば現代に通じるものがあります。地軸を変更するという大砲クラブの試みは結局のところ失敗してしまい、極地の氷は溶けませんでした。最後にヴェルヌは科学の無力さを強調していましたが、その点では現代の温暖化の状況がさらに皮肉に思えてきます。

『西暦2889年・アメリカ新聞王の一日』。1000年先の未来を予測した短編が入っていました。電話網が発達して、新聞記事は電話で読み上げられ、ファクシミリやTVのような機械で世界中の情報がすぐ手に入る未来が描かれてますが、これも現在のコンピューターネットワークに通じるものがあり、人類はたった百年ちょっとで、ヴェルヌの千年先の未来社会を手に入れてしまったようです。

久しぶりにグーグルアースで遊んでみました。
北極には陸地がない。
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極地の氷量のコンテンツを追加すると、
1979年9月
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やはり北極の氷は少なくなっていますね。
2008年9月
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