壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

ミケランジェロの暗号 ベンジャミン・ブレック, ロイ・ドリナー

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ミケランジェロの暗号 ベンジャミン・ブレック, ロイ・ドリナー
飯泉恵美子訳 早川書房 2008年 3000円

システィーナ礼拝堂に隠された禁断のメッセージ』という副題が示すように、ミケランジェロが傾倒していた新プラトン主義、ユダヤ教神秘主義的な思想が、システィーナ礼拝堂の天井画や壁画に隠されており、ヴァチカンと教皇に対する反抗と侮辱的なサインがみてとれるといいます。

著者の二人はユダヤ教徒のラビと研究者ですから、バイアスがかかっている部分も多いとは思いますが、ミケランジェロの苦悩と情熱に満ちた生涯と教皇ユリウス二世との確執が詳細に書かれていて面白く、システィーナ礼拝堂の歴史的成立も分りやすく解説されています。

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天井画の中央部にある三連作(9つの部分)のうち、「ノアの洪水」がまず描かれ途中公開されて人物が小さすぎることに気がついて、「天地創造」と「アダムとエヴァ」では下から見上げた時に分りやすいように単純化されて人物が大きく描かれているといいます。新約聖書の人物が一人も描かれていないのはなぜか、聖人でなく預言者や巫女が描かれていることの意味が詳しく考察されています。

最後の審判」の大壁画も同様に腐敗したヴァチカンに対する軽蔑が盛り込まれていて、例えば、罰を科されたミノス王の顔が、ミケランジェロを批判し続けていた教皇儀典長のものになっているそうです。このフレスコ画が20世紀の終わりに洗浄修復され、細部が明らかになったため、ヘブライ文字が隠されているとか、教皇にたいする性的侮辱のサインがあるとか、「アダムの創造」で創造主のマント全体が脳をかたどっているとか。そういわれればそう見えなくもないけれど、にわかには信じがたいものもあります。またシスティーナではないけれど、ユリウス二世の墓碑銘に置かれたモーゼの像の角は、光を頭上で反射させて神々しさを出すため視覚効果として工夫されたものであったとか。これなら実験的にたしかめられそうだけれど。

研究書としては多少偏向しているでしょうが、なかなか面白い本でした。本のジャケットを大きく開くとポスターになるそうですが、図書館本なのでフィルムカバーがかかっていて全体を見ることができず残念です。