壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

鳥類学者のファンタジア 奥泉光

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鳥類学者のファンタジア 奥泉光
集英社 2001年 2300円

いろいろ慌しくて、すっかりご無沙汰しました。まだ当分忙しそうで、まとまった読書ができません。リコメもご訪問も遅れ勝ちですみません。

ポオの『ゴードン・ピムの物語』には最後の方に地下世界に通じる洞窟に触れた部分があって、『氷のスフィンクス』だけでなく、『地底旅行』もまたヴェルヌによる続編といえるらしいのですが、そのヴェルヌの『地底旅行』の続編がまた奥泉光によって『新・地底旅行』として書かれているそうです。そういえば、何年か前に新聞に連載されていたのをかすかに思い出しましたが、毎日少しずつ読む新聞小説は性に合わなくて無視していました。

『新・地底旅行』を読む前にヴェルヌを読み返したいけれど、青柳いづみこ『六本指のゴルドベルグ』で優れた音楽小説として紹介されていた『鳥類学者のファンタジア』もはずせないかなあと読み始め、面白かったので二、三日ほどで読み終えたのですが、放っておいたらだいぶ忘れて、記事を書くのが面倒になりました。でもオルフェウスの音階がテーマの、山下洋輔作曲「FOGGY'S MOOD」を聞きいていたら、ちょっとのってきました。

国分寺のジャズ喫茶でピアノ演奏をしている希梨子は、ある夜に終戦時のベルリンで留学中に行方不明になったはずの祖母霧子に出合い、希梨子が演奏した曲のテーマの音列が「オルフェウスの音階」だと聞かされました。郷里の蔵の中で古いオルゴールを開いた途端、希梨子はフォギーとして1944年のドイツにタイムスリップし、自分より若い祖母霧子とともに、ナチの息のかかった「心霊音楽協会」に迷い込んで、なにやら怪しげな演奏会に参加し、もうなんだかわけが分らないうちにいろんな冒険をするのですが、これがやたらに面白い。

生来の「うかつ体質」であるフォギーの(正確に言えば、フォギーの物語の語り手である「わたし」であり、この辺の構成も面白いのですが)饒舌な語りはユーモア小説ですが、漱石を思わせる上質な諧謔が素晴らしく、音楽の演奏場面では高揚感に溢れていて、なんとも言えず楽しい思いをしました。こんなに面白い本を見逃していたとは!奥泉光という作家も初読でした。次は『『吾輩は猫である』殺人事件』を、と思いますが、いつになることやら。