壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

血族 山口瞳

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血族 山口瞳
文春文庫 1982年 610円

「江分利満氏」は読んだことがあり、オジサン小説^^という感じをもったような覚えがあります。本書は1979年に出版され当時ずいぶん話題になった作品でした。もう三十年も前に読んだことになりますが、桜庭一樹読書日記に取り上げられていて、また読みたくなってしまいました。

山口瞳氏の母親は美しく自由闊達な人だったけれど、自分の過去をどうしても語らなかったそうです。幼い頃から一族に秘密があるらしいことはうすうす感じていたけれど、その過去に触れることがなんとなく恐ろしくて、50歳を過ぎてからやっと解明に乗り出したその記録のようなものです。古い小説ですが、やはりネタバレは無しにしましょう。

ほぼ実名で書かれた実話ですが、ノンフィクションとも私小説とも異なり、小説運びはミステリ風に仕立てた部分もあって、ゾクゾクしながら読める本でした。ミステリ部分はしっかりと記憶していましたが、それでも再読に耐える内容です。

時間を行ったり来たりして何度も同じ話を繰り返す冗長さが、親族や故郷に対する複雑な思いを表現しています。知りたいという気持ちと知りたくないという気持ちが交叉し、実話だからすべての謎が明らかになることはないけれど、遠い地を訪ねた最後に救いがありました。山口氏の父親の過去を扱った「家族」を先頃、物置で見つけたのでこれも再読します。