壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

名犬ラッド A・P ターヒューン

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名犬ラッド A・P ターヒューン
岩田欣三訳 岩波少年少女文学全集15 1961年 380円

前回読んだ本『犬の帝国』に戦後TV放送された「名犬ラッシー」(1957年より放送)も話題に出てきて懐かしかったので、たぶん同じ頃に読んだ『名犬ラッド』を再読しました。

半世紀近く前に初めて買ってもらった全集の中の一冊です。大事にしていたはずなのに、全30巻のうちたまたま手元に残っているのは数冊だけです。当時、この本は夢中になって何度も読み返したのでとても懐かしいのだけれど、小学生の頃に感じた新鮮な喜びはもう二度と味わえないだろうと再読はしていませんでした。

ニューヨーク郊外の田園地帯の大きな邸に住むコリー犬ラッドは、美しく気品に溢れ勇気があって賢く忠実で辛抱強く、誰からも愛される犬です。ラッドは著者ターヒューンが実際に飼っていた犬で、すべてが事実に基づいた話だそうです。

レディーという恋人をめぐる卑怯な恋敵との三角関係、冬の湖に落ちた女主人を助けたこと、小児麻痺の子を身を挺して毒蛇から守ったこと、口輪をはめられたまま迷子になったニューヨークの真ん中から冬のハドソン川を泳ぎきってニュージャージーの家に戻った冒険などなど、本当に実話かと疑いたくなるくらい良くできた話です。

子供の頃はそういうことは疑いもしなかったけれど、今読むと余分なことをいろいろ考えてしまいます。それに、実話系の話は再読に向いていないかもしれません。1919年の原作ですし翻訳も五十年前ですから、ところどころ違和感もあるのですが、考えていたよりも犬の心理が擬人化されていなくて、今読んでもまあ楽しめる作品でした。レディー(ラッドのつれあい)がどうなったか知りたいのでページ数の関係で省略されたという二つの章を加えて、新訳で復刊というのはいかがでしょう、岩波さん。


ところで、翻訳物が好きな理由の一つは子供時代の読書体験にあったようです。お気に入りだったこの「岩波少年少女文学全集」は三十冊のうち一冊だけが日本の民話神話で、あとは全部翻訳物でした。ここで決定的に西洋かぶれになったのかもしれません。