壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

クロック商会 フリードリヒ・グラウザー

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クロック商会 フリードリヒ・グラウザー
種村季弘訳 作品社 1999年 2000円

「老魔法使い」で知ったシュトゥーダー刑事のシリーズ。五編の長編の、第四作に当たります。「老魔法使い」にあった二つの長編とは雰囲気が異なり、少し軽めです。

1920―30年代でしょうか、娘の結婚式の小旅行で、アッペンツェル(スイス北東部の準州)の寒村を訪れたシュトゥーダー刑事たちの一行は、クロック商会という興信所の事務員が殺されたホテルに泊まりました。現地の警察が来るまでの間、刑事と娘婿が捜査をはじめました。だってホテルの女主人はシュトゥーダーの小学校時代の初恋相手なんで、いいとこを見せたいですものね。

ホテルの女主人と病気で寝たきりのその夫、ホテルの隣の自転車屋、派手な身なりの若い女、イタリア人のメイドと登場人物に事欠かないのに、さらに隣州から駆けつけたクロック商会の経営者、フランス人の銀行家たちがなにやら怪しげに振舞います。

物的証拠よりも裏にある社会的な状況を読み取って、シュトゥーダーは事件を解決に導きます。刑事の有能さをあまり感じさせない彼の一喜一憂が面白いけれど、相変わらず語りと地の文が明確に区別されないので、文章としては読みにくいです。

独仏伊に方言が入り乱れ、首都から遠く山深いのに外国に近いスイスは密偵やら何やらが暗躍するのに格好の場所なんですね。スイスに関するなけなしのイメージをかき集めて、この地方のこの時代の人々の暮らしと息吹を多少なりと想像できました。

このシリーズは残り二編になりましたが、「狂気の王国」を読もうと思います。外人部隊はなんとなく苦手なので「砂漠の千里眼」のほうは今のところパス。