フリードリヒ・グラウザーの、五つの長編の第四作品目です。1930年代のスイス。院長と患者が失踪した精神病院を舞台にシュトゥーダー刑事が事件を解決します。といっても、途中、第二第三の事件が起きるのにシュトゥーダーは混乱の中にあって、最後だって本当に解決したのかどうか、ぜんぜんすっきりしません。「それはないんじゃないの?」となんとなくシュトゥーダーに同情。
グラウザーは三冊目なので、もうミステリとしては認識していないのだけれど、それにしても読みにくい。文章が断片的で独白と会話と描写の区別がつきにくい部分があります。きっと原文がこんな感じなんでしょうか、二三度読み直さないと意味が取れないので読むのに時間がかかり、途中で他の本を何冊も読んでしまったけれど、放棄しなかったのは、著者の経歴(父親との確執のためダダイズムに走り薬物中毒となって、父親の手で精神病院に監禁されていた)と重なる部分があって、興味深かったからです。