壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

狂気の王国 フリードリヒ・グラウザー

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狂気の王国 フリードリヒ・グラウザー
種村季弘訳 作品社 1998年 2400円

フリードリヒ・グラウザーの、五つの長編の第四作品目です。1930年代のスイス。院長と患者が失踪した精神病院を舞台にシュトゥーダー刑事が事件を解決します。といっても、途中、第二第三の事件が起きるのにシュトゥーダーは混乱の中にあって、最後だって本当に解決したのかどうか、ぜんぜんすっきりしません。「それはないんじゃないの?」となんとなくシュトゥーダーに同情。

グラウザーは三冊目なので、もうミステリとしては認識していないのだけれど、それにしても読みにくい。文章が断片的で独白と会話と描写の区別がつきにくい部分があります。きっと原文がこんな感じなんでしょうか、二三度読み直さないと意味が取れないので読むのに時間がかかり、途中で他の本を何冊も読んでしまったけれど、放棄しなかったのは、著者の経歴(父親との確執のためダダイズムに走り薬物中毒となって、父親の手で精神病院に監禁されていた)と重なる部分があって、興味深かったからです。

さらに、当時は最先端だった精神分析による治療がどう捕らえられていたかとか、犯罪と精神疾患だとか、もっと驚くべき旧来の治療法だとか、大きな精神病院の内情、ラジオから聞こえてくるいやな訴求力をもつ外国人の演説とか、そういう独特の雰囲気が味わい深い。シュトゥーダー物はあと一作品残っていますが、いつか思い出したときのために読まないでおきましょう。ていうか、疲れました。