壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

千年前の人類を襲った大温暖化 ブライアン・フェイガン

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千年前の人類を襲った大温暖化 ブライアン・フェイガン
東郷えりか訳 河出書房新社 2008年 2400円


ご無沙汰していました。このところ、私としてはめずらしく忙しくて、ネット徘徊も出来ず、読書は単に就眠儀式となって、数ページで朦朧としてきて寝オチ。次の夜にまた同じところを読み返かえすというペースで一週間以上もかかってやっと読めました。

西暦800年から1300年の約五世紀間、人類にとって比較的暖かい時期が続いた。これを中世温暖期という。ほんのわずかではあるが、中世ヨーロッパは暖かく湿潤であったらしい。西暦1000年頃には、イギリスやドイツでも葡萄が栽培されるようになってワインの生産がはじまったことでも証拠付けられる。古代スカンディナヴィア人は穏やかな海を航海してニューファンドランドにまでたどり着いた。

食糧に余裕があったために、例えば壮大なゴシック様式の大聖堂が建築されたのもこの頃である。ヨーロッパで食糧事情が好転した結果人口が増えた。しかし気候は変動するものであるから、増えた人口を支えるためにより多くの耕地が必要となり、耕作のための鉄器が発達し、鉄の製錬のために木炭も必要となり、大規模な森林伐採が行われた。中世温暖期の次の六世紀(14世紀から19世紀半ばまで)は不安定で寒冷な気候に支配された小氷期であった。1300年代初頭から穀物生産の低下と漁獲高の減少による飢餓と、追い討ちを掛けるように広がる黒死病が西ヨーロッパを衰退させた。

西ヨーロッパが温暖であった時代に世界の他の地域はどうだったのかというのが、この本のメインテーマ。結論から言うと、氷床コア、湖沼の堆積物、年輪などの間接的な証拠から古気候を推定することができるのだが、この時期の西ヨーロッパのような温暖な気候が、全世界共通に見られたわけではないということ。

気候の傾向は一定ではないが、例えばチンギス・ハーンの時代、ユーラシアのステップは温暖ではあるが降雨が少なく乾燥していたのではないかという。もともとステップは過酷な環境であり、降雨があれば牧草が動物を養うが、干ばつであれば食糧が尽きてそこに住む遊牧民は周りの農耕民を侵略するしかない。砂漠や半乾燥地はポンプのように人と家畜を吸い込んだり、吐き出したりする。チンギス・ハーンは干ばつによって西に向かったが、その孫の世代にはステップが草原になってヨーロッパ征服の野心が続かなかったという。厳しい干ばつを経験したのは、北アメリカ西部や中央アメリカ、そして東南アジア。マヤ文明やアンコール朝の衰退も水を得られなかったためかもしれないという。




文明の衰退が気候の変化だけの原因であるわけはないですが、中世ヨーロッパと同時代に世界でどんなことが起きていたのかという視点がとても面白かったと思います。西暦1200年ごろ、ポリネシア人貿易風の変化を利用してイースター島(ラパ・ヌイ)にたどりついたかもしれないというのですが、あのモアイ像はもっと古いのかと思っていましたよ。

今の時代の地球温暖化で最も恐れるべきなのは、極地の氷が溶けて海面が上昇すること以上に干ばつの被害であることは確かのようです。気温の上昇によって水分蒸発と降雨の循環が激しくなれば、乾燥地帯はより乾燥し、湿潤な地帯は降雨量が増して豪雨となるのでしょう。現在でも水や食糧の分配は不均等ですから、将来、環境が急激に変化したとき水や食料の再分配を効果的に行うのはもっと難しいでしょう。19世紀から現在に至るのは『化石燃料文明』というべきものです。この文明の衰退はもう始まっているのかしらね。