壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

やし酒飲み エイモス・チュツオーラ

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やし酒飲み エイモス・チュツオーラ
土屋哲訳 河出書房新社 世界文学全集I-08 2008年 2800円

 

アフリカの日々』と同じ巻に収められていましたが、異質なものなので、ちょっと間を置いてみました。あまりに奇妙で、なんか可笑しくて、民話としてどこかで読んだことがあるようなないような、頭の中で聞いたこともないアフリカの音楽が鳴り響くような、そんな物語。

 

10歳の頃からやし酒を飲むことしか能のない男は、金持ちの父親に専属のやし酒づくりの名人を雇ってもらいました。あるときその名人が死んだのでうまいやし酒が飲めなくなり、名人をとりもどしに「死者の町」への旅に出でました。森は奇怪な生き物たちでいっぱい。とんでもない奇想天外な姿で男の旅に関わってきます。

 

男はジュジュという霊力のようなもので鳥にも変身できます。しかしジュジュは使うとなくなってしまうものらしく、森の奇怪な生物に襲われるのです。そして、いつもすんでのところで化け物のテリトリーから逃げ出すと、旅を続けるためにまた新たな森へ入っていかなければなりません。やっと死者の町でやし酒造りの名人に出会うのですが・・。

 

エイモス・チュツオーラはナイジェリア出身。この作品はローカルな英語(ピジンイングリッシュ)で書かれているそうです。『である調』から突然『ですます調』にスイッチされているのも翻訳の工夫のようです。ナイジェリアあたりの熱帯雨林は、かつては人を寄せ付けない、底の深い森だったのでしょうね。森は畏怖や恐怖の対象だったからこそ、こんな物語が生まれてくるのでしょう。深い森に不用意に立ち入れば、奇怪な生物ばかりかエマージングウイルスにまで遭遇しそうです。

 

エイモス・チュツオーラは「甲羅男にカブト虫女」というのが鴻巣友季子さんの翻訳で出ているそうなので、ちょっと読んでみようかしら。