壊れかけたメモリーの外部記憶

70代の読書記録です。あとどれくらい本が読めるんだろう…

八月十五日の夜会 蓮見圭一

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八月十五日の夜会 蓮見圭一
新潮社 2008年 1500円

沖縄出身の祖父が亡くなって大学生の東江秀二が散骨のために名護の海に向かう日、祖父の戦友だという前島勇作に、名護市にいる当間老人の見舞いを頼まれました。見舞いの礼にと当間老人の娘に手渡されたのは三本のカセットテープでした。『八月十五日、夜』というラベルのついたテープにあったのは、前島勇作が語る伊是名島での終戦の日々の出来事でした。

中野学校を出た前島は情報戦の要員として、半農半漁の小さな島(伊是名島)に教師という身分で派遣されました。米軍にさえ無視されるような何もない島にも戦争の狂気が押し寄せました。事実上孤立した島を、沖縄本島からの敗残兵のグループが支配し、たまたま訪れた米兵の殺害を島民に強要しました。さらには一部の島民をスパイ呼ばわりし、奄美から買われてきた少年たちをスパイとして惨殺しました。前島や島民はいやおうなく巻き込まれ、あまりにもおぞましい体験をすることになりました。

悲惨な地上戦こそなかった島でも、戦争は人間の精神をバランスを失わせます。伊是名島での米兵と少年の虐殺事件は目撃証言が出版されているので、本書はある程度事実に基づいた物語のようです。虐殺の場面では、被害者と加害者両方のあまりにもリアルな描写があって、目を覆いたくなるほどでした。八月十五日関連の本を読もうと気軽に本書を選んでしまったので、覚悟が足りなかったかもしれません。

このテープが録音された経緯は知りたかったのですが、それにはいっさい触れられていません。前島の語りが殺害などの悲惨な場面では『ですます調』から突然『である調』にスイッチされるのがなぜかも不明です。秀二がテープを聞く以前の伏線(と思った物)が、テープを聞いたあとで一部しか回収されていないので、ずいぶんと終わり方が唐突な感じでした。新潮ケータイ文庫として配信されたものだそうですが、こういう重い題材はケータイでどれだけ読んでもらえたのでしょうか。